現代版のとても良い演出~『ラ・ボエーム ニューヨーク愛の歌』(試写)

 『ラ・ボエーム ニューヨーク愛の歌』を試写で見た。舞台を現代ニューヨークにしたオペラ映画である。

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 話はほぼ通常の『ラ・ボエーム』で(若干変更やカットはあると思うが)、コッリーネ(井上秀則)の外套の歌までちゃんとある。もともと『ラ・ボエーム』は若い貧乏アーティストといういつの時代にも世界の大都市にはいる人たちを扱っているため現代風の演出にしやすい話で、1950年代を舞台にした有名なバズ・ラーマンのバージョンとか、現代ロンドンが舞台のパブオペラ版、現代の南アフリカが舞台の版などもあり、また『レント』もある。本作もたぶん『レント』の影響がけっこう濃厚だ。

 今回のプロダクションは「現在」ということで、たぶん新型コロナを連想させるため登場人物がマスクをしている。主演の2人は中国系で、ミミ(ビジョー・チャン)はとても歌がよい一方、中国系の若い女性が縫製業を営んでいるがなかなかお金が稼げず、保険もなくて…というのはたぶんアメリカでは大変リアルな状況なのだろうと思う。アメリカの新型コロナでは非白人が割を食い(黒人のほうが死亡率が高かったそうだが)、中国系が差別を受けたことなどを考えると、ミミの死因にもコロナ後遺症とかが関係しているのかも…とも思った。メガネのロドルフォ(シャン・ズウェン)との相性もピッタリである。一方でムゼッタ(ラリサ・マルティネス)とマルチェッロ(ルイス・アレハンドロ・オロスコ)は激しいカップルだ。静かに愛を育む謙虚な主役の2人が中国系、脇筋の激しいカップルがラティンクス…という対比はちょっとステレオタイプな表現かもしれないが、歌や演技がしっかりしているので見ている間はそんなに気にならない。 

 ただ、映像的に、舞台ではまあいいとしても映画ではこれはちょっとやりすぎかな…と思ったところはある。逆光を使った撮影があるのだが、これはややくどいのではと思った。また、最後にミミの死ぬところで屋内にけっこうな雪が降り積もるところもちょっと大げさが気がした。