南アフリカ版、イサンゴ・アンサンブルの『ラ・ボエーム』

 東京芸術劇場でイサンゴ・アンサンブルの『ラ・ボエーム』を見てきた。名前や設定を全て現代南アフリカにモダナイズした翻案である。元のオペラはクリスマスの寒い時期が舞台なのだが、南アフリカはクリスマスが夏なので、寒さを演出するため舞台は6月の反アパルトヘイトデーである「若者の日」から始まる設定になっている。南アフリカ版オペラということでは既に『ポーギーとべス』をロンドンで見てとてもよかったのだが、最近南アフリカではこういうのが流行っているのだろうか。

 とりあえず演出はすごく面白かった。世界エイズ・結核・マラリア対策基金の支援を受けた公演だけあり、いまだに結核で死ぬ人がいる南アフリカの現在に引き付けた病気描写はとてもリアルだ。さらに病気や貧困に苦しんではいるがそれでも「若者の日」にアパルトヘイト廃止を記念して自由を祝い、希望を持って芸術活動をしようとする南アフリカの若者たちの様子はとても生き生きしている。前半コミカルなのに後半、ミミが死ぬ場面は悲しいということでメリハリもある。 

 音楽的にはよいところと悪いところが両方あった気がする。クラシックのオーケストラを使わず地元のマリンバやカリブのスティールパンを用いた編成で耳慣れたプッチーニのメロディを演奏するあたりはなかなか工夫があっていいと思う。ただ、合唱の使い方などがややうまくいってなくて劇的効果を削いでる気がした。楽器が少ないので音量を合唱で補ったりしているのだが、編曲のせいなのか、合唱にソリストの個性がかき消されてしまっているところが結構あったと思う。とくにルンゲロ(ロドルフォに相当)がすごくロマンティックなんだけど声量不足気味な感じで、ミミの病気を心配して別れようとしていると告白する場面なんかでは合唱に押されてしまい、優しいキャラが際立ってないように思った。ミミが死ぬ場面もちょっと音楽が尻切れトンボな印象を受けたので、まだ編曲に改良の余地がかなりあるような気がする。