女性の暮らしのいろいろな断面を切り取った作品~『私たちの声』

 『私たちの声』を見てきた。いろいろな国の女性の暮らしに関する7つの短編からなるオムニバス映画である。

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 ひとつひとつの作品はけっこう出来にばらつきがあると思うし、また好みがあるので見る人を選びそうな作品ではあるのだが、私はけっこう面白かった。ひとつではないいろいろな女性の声を反映しようとしているところがいい。こういうアプローチをとることでいわゆる「シングルストーリーの危険性」を若干は避けることができる。

 とくにいいのは実話系の作品で、新型コロナウイルス流行時にホテルでホームレスの人たちを世話するプロジェクトを描いたキャサリン・ハードウィック監督の第2話「無限の思いやり」が一番面白いと思った。マーシャ・ゲイ・ハーデンが実在するプロジェクト担当医師スーザン・パートヴィを、カーラ・デルヴィーニュがメンタルの問題を抱えているホームレスの女性を演じていて、これは長編にしてもいいくらい興味深い題材では…と思った。また、日本からは呉美保監督の「私の一週間」という作品が入っており、これは杏が演じるシングルマザーの1週間をただ描いたものなのだがリアルさが大変良い。

 ただ、いくつか足りないところはあると思う。まず、話の並びがちょっと良くない…というか、序盤を実話っぽいもので固めてだんだんファンタジーっぽい話にしていったほうがいいと思うのだが、第1話、第2話は完全に実話ベースなのに第3話があまり現実感のない「帰郷」、第4話「私の一週間」で実話ではないもののリアル路線に戻り、第5話「声なきサイン」も実話ベースで、その後はファンタジーっぽい方向性に突進していくので、リアルなものを先に持ってきてだんだんファンタジー色が強くなるようにしたほうがいいと思う。また、第6話「シェアライド」は、こういう話にするならトランスジェンダー(インドなので「トランスジェンダー」じゃなくて「ヒジュラー」等の言葉を使ったほうがいいのかもしれないが)の女性を視点人物にしたほうがいいと思うのだが、シスジェンダーのエリート女性がトランスジェンダーの女性と会ってちょっと精神の解放を…みたいな展開はなんかマジカルニグロならぬマジカルクィアみたいな感じであまり良いと思わなかった。あと、最後のアニメ短編はなくてもいいような気がする。