不屈のデザイナーを襲う悪夢のロジスティックス地獄~『ファッション・リイマジン』(試写)

 ベッキー・ハトナー監督『ファッション・リイマジン』を試写で見た。ファッションブランドであるマザー・オブ・パールのデザイナーであるエイミー・パウニーのサステイナブルファッションへの取り組みを追ったドキュメンタリーである。

www.youtube.com

 エイミーはインフラもない田舎の農場でシンプルな暮らしをむねとする両親に育てられたそうで、そういうところでファッションに興味を持つのは特異なことだったようだ。とはいえそうした育ちからしサステナビリティを重視するようになるのは当たり前で、だんだんデザイナーとしてのキャリアを確立したエイミーは、ファッション業界の在り方があまりにも環境に悪すぎることに心を痛め、2018年のコレクションでサステナビリティがコンセプトの服を作ることにする。

 ところがサステイナブルな素材であるコットンとかウールについて、出所のはっきりした素材をまともそうな加工工場まで運んで加工してもらう流通経路を作るだけで大変な苦労であることがわかる。一応、ちゃんとした牧場とかちゃんとした紡績工場とかは個別に見つかるのだが、てんでバラバラな地域にあって輸送コストがかかりすぎるのでサステイナブルと言い難い生産形態になってしまったり、「この羊毛やこの綿を使ってください」というような指定ができなかったりする。複雑怪奇なロジスティックス地獄にのみ込まれてコレクションがポシャりそうになってしまうエイミーだが、開発担当のクロエと苦労の末にコレクションを完成させる。コレクションは大好評でサステナビリティはファッション業界の流行になるが、一方でファッションの環境負荷じたいは増える一方で…ということで、ハッピーエンドにはなっていない。

 この映画で描かれているエイミーの苦労はふつう「ファッションデザイナー」という仕事から想像するような業務とはかなりかけ離れており、デザインよりも材料の調達とロジスティックスが主なので、けっこう意外性があって面白かった。デザイナーが本気で服を作る工程全部にかかわるとこれだけ大変なんだな…とビックリする一方、エイミーは信念を持って正しいことをしていると思うので、応援したくなる。映画の中でエイミー本人も言っているが、やはりファッション界にも多様性が必要で、地方出身者とか非白人とかが入ってこないと発想が硬直してしまって形が変わらないのだろうと思う。エイミーは田舎出身でファッション業界とはほど遠い親に育てられたのでちょっと発想が違い、そこが作るものに面白さをもたらしていると思う。

 ただ、ちょっと一言文句を言うと、『ファッション・リイマジン』という日本語タイトルはどうかなぁと思う。原題はFashion Reimaginedなのだが、日本語タイトルでは過去分詞をなぜか原形にしているせいで文法的に変な感じになっている。さらにこの映画を『ファッション・リイマジン』というタイトルにして、サステナビリティとかジェンダーとかに興味ある人に届くかなぁ…という気もした(私も試写をもらわなければ見なかっただろうと思う)。ダサくてもいいので、『ファッションデザイナー、エイミーの挑戦』とか、やる気ある女性が頑張る風の日本語タイトルにしても良かったのではと思う。