科学と信仰に関する骨太な芝居~『骨と十字架』(配信)

 2019年に新国立劇場で上演された、野木萌葱作、小川絵梨子演出『骨と十字架』を配信で見た。実在したイエズス会の神父で古生物学者であるピエール・テイヤール・ド・シャルダン(神農直隆)の生涯を題材とする作品である。

 テイヤールは北京原人を発見した大変優秀な研究者なのだが、その研究は進化論に基づくものであり、アダムとイヴから人間が始まったとするイエズス会は当然、テイヤールの思想を危険視している。テイヤールは聖書は比喩的なものだと考え、信仰と科学的探求を両立させているのだが、周囲の聖職者たちは信仰と科学を一度に愛することは無理だと思っている。ここにちょっと難しいところがあり、テイヤールにとって信仰と科学は融合して自然の体系を形作るひとつのものであり、神は人に近いところにいて、人間は科学的研鑽を積むことによって神を理解し、神と同じようなところに至ることができる。他の聖職者たちは科学研究に携わっている者であってもこのふたつを有機的に融合させるということが考えにくく、テイヤールのアプローチは神を脅かす傲慢なもので、むしろ神は人間の考えが作りだしたという思考につながるのではないかという危惧を抱かせるものになってしまう。

 少ない人数で男性しか出てこない地味な芝居だが、緊張感のある会話劇で大変よくできている。タイトルに違わぬ骨太な芝居である。男性同士のちょっと暑苦しいとも言える思いやりと対抗心に満ちた人間関係もうまく描かれている。ただ、この舞台が20世紀だということを考えると、カトリック教会はなんと体制的で頭が固いのか…とも思って閉まった。あと、配信だとごくたまに(とくに始めのほう)音が割れるところがあると思った(音声を拾う位置の問題なのかな?)。