けっこうちゃんと愛を描いているような…『VORTEX ヴォルテックス』(試写)

 ギャスパー・ノエ監督『VORTEX ヴォルテックス』を試写で見た。たぶんギャスパー・ノエの映画を初めて見たと思う(妻の作った映画は見たことある)。

www.youtube.com

 認知症の妻(フランソワーズ・ルブラン)と心臓病の夫(ダリオ・アルジェント)の最晩年の生活をスプリットスクリーンで描いた作品である。息子のステファン(アレックス・ルッツ)はドラッグをやっていていろいろ問題を抱えているが、子どもの面倒はちゃんと見ており、両親のこともそれなりに心配している…ものの、子どものほうが大事なのでなかなか親を優先にはできない。老夫婦のコンディションはどんどん悪化する。

 最初は一画面で老夫婦が愛し合って暮らしている様子を見せるのだが、その後スプリットスクリーンになり、それを使って夫婦の接触というかコミュニケーションがだんだんうまくいかなくなっていく様子を容赦なく見せている。妻のほうはどんどん認知機能が衰えて夫の原稿をトイレに捨てたりするし、夫のほうは体力をみるみる失っていく。この描写はかなり残酷…というか、現実的にイヤな感じがするのだが、一方できちんとコミュニケーションがとれなくなってもこの2人はまだ双方に対する思いやりの気持ちが残っているということはなんとなくわかるのが余計いたたまれない(ただし夫のほうは昔の恋人らしい相手に会っていたりしてちょっと浮気心もあるのだが)。夫が亡くなった後、状況がわからない妻がシェリ(フランス語でダーリンみたいな意味)を呼びながら深夜に徘徊するところはけっこう心理的にくるものがある。そういう意味ではこれはどうしようもない力により失われつつある愛を非常に真面目に描いた作品で、いくら愛しあっていても老い、病、死には勝てなくて死ぬときは人は孤独である…ということを冷徹に描いている一方、それでも愛は人生において意味があるということを表現しているようにも思った。