東京フィルメックスでマルティカ・ラミレス・エスコバル監督の『レオノールの脳内ヒプナゴジア』を見てきた。
引退した72才の映画監督レオノール(シェイラ・フランシスコ)は家計も苦しく、最近は物忘れや体が前ほどきかないところもある上、一緒に暮らしている息子ルディ(ボン・カブレラ)は出稼ぎに行くべく家を出ようとしている。レオノールは脚本コンテストがあるのを知って昔書いた未完の脚本を引っ張り出してくるが、上からテレビが落ちてきてそこに頭をぶつけたせいでヒプナゴジア(半覚醒)状態になる。レオノールは自作のアクション映画の世界に入り込んでしまうが…
パラレルワールドみたいな展開や、どうもヘテロセクシュアルではなさそうな息子と母との関係を描いたところなど、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を思わせるところもある作品である。最後がけっこう綺麗に家族愛の話としてまとまるのも無くなった息子ロンワルド(アンソニー・ファルコン)が幽霊みたいに半透明で出てきたり、映画中映画で脚本未完成部分になると俳優が場つなぎみたいに踊ったり、いろいろ変わった面白い仕掛けがある。
いいところはたくさんある映画なのだが、個人的には好みではないな…と思う大きいポイントがひとつあった。レオノールの未完成脚本に基づいているという映画中映画が全然、面白そうに見えないということである。ポストトークでの監督のお話によると、フィリピンはアクション映画作りがとても盛んで社会的に影響力もあるのに、女性監督がアクション映画に携わった実績が全然ないのでレオノールをアクション映画の監督にしたということらしいのだが、この映画はいかにも未完成らしくて骨子だけでいろいろアラがあり、かつ物語の筋も単純でしょうもないもので、いかにも「一般的なアクション映画です」みたいな感じで、どちらかというとパロディっぽいとも言えるくらいジェネリックアクション映画である。ところがこの未完成っぽさとパロディっぽさの食い合わせがあんまり良くなく、過剰すぎて笑える感じになるにはちゃんとしていて、ただただ低予算映画っぽい。もうちょっと映画中映画の内容じたいがメチャクチャだったりすれば面白いのに…と思った。
また、フィリピンアクションのことを何も知らないのでコンテクストがつかめていないところもあるかもしれないのだが、この映画中映画は悪党に虐待されているヒロインを高潔なヒーローが救出するだけのかなり保守的な内容のものである。いくら亡くなった息子を弔う要素がある作品だからと言って、せっかくフィリピンであまり見られないという女性監督によるアクション映画という設定にしたのに、こんなに男性中心的なだけの映画中映画になって終わるのはなんとなく肩透かしだなぁ…と思った。監督が言っているように女性監督のアクション映画というところが新しい発想であるなら、映画の内容ももっとヒロインが活躍するとか、暴力的すぎる内容を笑える感じで諷刺するとか、そういうような方向性にしたほうが面白いのでは…という気がした。