スペイン風邪流行期のダブリンの産科を扱った芝居~ゲイト劇場『星のせいにして』

 ゲイト劇場でエマ・ドナヒューの小説を本人が戯曲化した『星のせいにして』(The Pull of the Stars)を見てきた。ルイーズ・ロウ演出でオールフィメールキャストである。

 舞台は1918年、スペインかぜが大流行中のダブリンの産科病室である。助産師のジュリア(サラ・モリス)は2人の妊婦の面倒を見ていたが、そこにブライディ(ガリア・コンロイ)がさらにもうひとり、非常に具合の悪そうな妊婦を運び込んでくる。手の足りないジュリアはブライディをアシスタントにして妊婦たちの面倒を見るが…

 オールフィメールキャストで、時代ものだが戦争やパンデミックといった非常に現代的な内容を扱っている(小説の執筆は新型コロナが流行る直前の時期らしい)。産科病室に入院している妊婦の間にも格差があり、そこが非常に丁寧に描かれている。デラ(インディア・マレン)はプロテスタントでミドルクラスだが、出産にまるっきり無知な若いメアリ(キアラ・バーン)はたぶんカトリックで貧しく、この2人の間には当然、政治的にも対立がある。夫がいないオナー(ユーナ・キャヴァナ)はさらに貧しく、たぶん精神疾患か障害を抱えている上、ひどい肺炎にかかっている。病室を監督しているキャスリーン・リン医師(メーヴ・フィッツジェラルド)は実在の人物で、アイルランド発の女性医師でレズビアン政治活動家だったそうで、イースター蜂起に参加したせいで保守的なデラにテロリスト呼ばわりされている。優しくて寛容そうなジュリアにもいろいろ見えていないことがあり、そんなジュリアが境遇の違うブライディを愛することで幸せが見えてきそうになる…のだが、最後はとても悲劇的な終わり方をする。ハッピーエンドにならないレズビアンロマンスを扱っているという点ではちょっと悲惨な気はするのだが、笑うところもあるし、ジュリアの最後の選択肢が心に残る作品である。