頭の回転にテンションが追いつかないみたいなハムレット~彩の国シェイクスピア『ハムレット』(配信)

 彩の国シェイクスピアハムレット』を配信で見た。

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 服はわりと現代風だが、ちょっと時代がかっているところもある。柱はあるのだが、それ以外はあまりたくさん舞台にものを置かず、空間を広く使う感じの演出である。ものが少ない分、何か出てくるとわりと目立つように使われており、花が序盤から大きな意味を持つようになっている。尼寺の場では舞台に大きな黄色い花が飾られているのだが、狂乱気味のハムレット柿澤勇人)がその花瓶を倒し、オフィーリア(北 香那)の周りに落として尼寺に行くよう言う。オフィーリア狂乱の場ではオフィーリアはこの時と同じ黄色い花を持っており、オフィーリアが狂乱したり花を投げつけたりする行動はハムレットの行動の反復である。ハムレットがオフィーリアにいかにひどいことをしたか、そしてオフィーリアがそんなひどい態度をとったハムレットのことをいまだにどれほど深く考えているかが視覚的にわかるようになっている。

 序盤からかなりみんな早口で、デンマークがどうもいろいろ切羽詰まって急迫した状況であることがわかる。また、ハムレットも早口なのだが、なんだか頭の回転の速さにテンションが追いついていないみたいな感じのハムレットで、ふだんは思考の速度に合わせて落ち着きなく早口で独り言を言いながらもそれを身体的な行動に移すエネルギーが足りていないみたいな感じなのだが、たまに急にテンションが上がると爆発的な行動をとる。親父さん(吉田鋼太郎、クローディアスと父王の二役で演出もつとめる)の亡霊に会った後はいきなり地面を転がったり、藤原竜也モード的なものに突入してしまう。この不均等なエネルギーがわりと特徴的である。

 けっこう面白かったのだが、いくつか疑問もある。配信で見ているからかもしれないのだが、全体的に照明が暗くてメリハリが少ないように思えた。デンマーク宮廷の暗い雰囲気を強調したいのだろうが、やりすぎな気もする(ただ、これはあまり配信向けの照明ではないというだけかもしれないので、生の舞台だともうちょっと雰囲気が変わるかもしれない)。また、オフィーリアの狂乱の場はめちゃくちゃオフィーリアが叫んだり暴れたりしており、これまで押し殺していた怒りが狂気によってやっと出てくることを許されたというのはわかるのだが、わりと長く続くのでだんだん狂気の身体を見せ物にするみたいな雰囲気が出てしまった気がするのがちょっと引っかかった。ここは加減が非常に難しいところだと思う。