現代ダブリンを舞台にした『アンティゴネー』~Twig

 マリアン・クイン監督の新作Twigを見た。

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 現代ダブリンを舞台にした『アンティゴネー』の翻案である。ギャングの一族の娘であるヒロインのトウィグ(シャーデイ・マローン)は、やはりギャングの一家の息子である恋人イーモン(ドナハ・タイラン)と逃げ出すことを夢見ている。ところがトウィグの兄弟であるエディ(クワク・フォーチュン)とポーリー(ジャスティン・ダニエルズ・アニニ)が対立して殺し合い、エディは死亡、ポーリーは行方不明になる。イーモンの父レオン(ブライアン・F・オバーン)が反対する中、トウィグはポーリーを探して助けようとする。

 けっこう気合いを入れてちゃんと『アンティゴネー』を現代化している作品である。厳しい社会状況の中で家族愛を大切にし、世間の目よりは信念とか人倫みたいなものを重視しているトウィグの決然とした行動を強調している。トウィグは若くて未熟なところもあるので軽率な行動をとってしまったりもするのだが、そのあたりも人間味がある。レオンがポーリーのお葬式を出すことすら拒否するのは現代的な感覚からするとどうなのか…という気もするが(現代人の感覚だとさっさと小規模な葬儀を出してうやむやにしてしまいたいのでは…と思う)、まあそのへんは『アンティゴネー』なので仕方ない。一方でトウィグとイーモンの恋心が原作より強調されており、冒頭のふたりが駆け落ちを夢想する場面はとても親密感があるし、終わり方などは『ロミオとジュリエット』みたいである。

 低予算なアート映画なのでいろいろアラが見えるところもあるが、全体的にはかなりギリシア悲劇をきちんと現代人にわかる話にしているほうだと思う。スパイク・リーも『シャイラク』で似たようなことをしようとしていたと思うのだが(これは喜劇だけど)、小さくまとめているぶん、こっちのほうがむしろうまくいっているように思う。一般受けはしないかもしれないが、野心的な作品だ。