リージェンツパークの夏の風物詩、オープンエア劇場でジェイミー・ロイド演出の『エビータ』を見てきた。
野外上演ということで、屋根のあるウェストエンドの大きな劇場で上演されるミュージカルとは全く違う演出を採用している。階段状になった舞台にはほぼ装置がなく、主な小道具としては風船が権力や夢の儚さ、エビータが大人になってもまだ残している子供っぽさの象徴として使われている。衣装も極めてシンプルで、エビータは最後の死の場面でやっと定番の華やかなドレスを舞台上で着るのだが、それまではずっとスリップみたいなシンプルなワンピースやツーピースしか着用しない。
非常にシンプルな舞台装置や衣装を用い、ちょっと引いた感じにすることでポピュリズムの政治劇を見せようとする演出なのだと思うのだが(前に見た『エビータ』はあまりポピュリズム劇らしくなかったのだが、このプロダクションはポピュリズムの政治劇である)、正直私は全然、好きになれなかった。というのも、ものすごい量の煙と紙吹雪と閃光を使用していて、舞台があんまりよく見えないからだ。夜間の野外上演でせっかくシンプルな舞台を使うんだから、舞台を隅々まではっきり見えるように提示したほうがいいと思うのだが、このプロダクションの演出は芝居というよりは野外レイヴみたいで、お客に舞台上のものや人をじっくり見せようという意識が無いように思える。
また、あまりにも一歩引いた演出にしているせいで、エビータ(サマンサ・ポーリー)に奥行きがないと思った。このレビューでエビータが「高校の『イヤな女』」みたいだと言われているが、まさにその通りで、若い女性が叫んだり泣いたりしているだけでそれ以外の感情のレンジがあまりなく、成熟した深みがない。この作品はエビータを欠点を山ほどかかえてはいるが非常に複雑な政治的人物として提示しないとミソジニー的になり得ると思うので、イヤな女にするにしても成熟とか複雑さが必要で、子どもっぽい高校の女王様みたいなキャラクターではダメではないかと思う。