こんなにでかいものを人を殺すためだけに…アウシュヴィッツ=ビルケナウ博物館

 アウシュヴィッツ=ビルケナウ博物館に行ってきた。3.5時間の英語のガイドツアーを予約し、途中で気分が悪くならないように朝食は少なくし、昼食も抜くという万全の準備で出向いた(以前、ベルリンのホロコーストメモリアルとロマ・シンティの弾圧祈念碑を見ただけで胃が痛くなったので、世界遺産の中で万一気分が悪くなると困る)。

 夏なので大混雑で、予約なしで行くと並ばないと入れないらしい。英語とポーランド語のツアーは15分から30分に1回くらい開催されているが、この時期は予約しないと入れなかったりするらしい。通常ツアーでも3.5時間かかる。

 入るとまずビデオを見る。このビデオが他言語で、入り口でもらったヘッドホンを脇に刺し、15種類くらいある中からわかる言語の音声を選ぶこともできる。日本語は14番だった。

ヘッドホンを指す装置

 そこからガイドツアーになるのだが、いろいろな言語のツアーが展開されているので、ガイドさんが話しているマイクの音だけを拾うヘッドホンをつけて回る。なかなか工夫されているな…と思ったのだが、この日は暑いわりに風が強かったので、ガイドさんのマイクが外の風とか扇風機の音を拾ってしまうことがあり、わりと雑音が入ることがあった。

こちらがヘッドホン装置

 ここがあの有名な「働けば自由になる」のサインがあるアウシュヴィッツ第一収容所の入り口。既に私はここでだいぶ胃が痛くなっていた。

「働けば自由になる」とドイツ語で書かれた入り口のアーチ

 アウシュヴィッツ=ビルケナウは名前どおりアウシュヴィッツ地区とビルケナウ地区にメインの大きな収容所があるのだが、アウシュヴィッツの第一収容所だけでもけっこう広い。バラックが保存されており、中に収容されていた人の遺品(ナチスが強奪した)や使っていた道具類、刈り取った髪などが展示されている。刈り取った髪や子どもの服などはかなりショッキングである。

収容された人のかばんの展示。名前が書いてあるのが痛々しい。ほとんどの持ち主はここで亡くなった。

 アウシュヴィッツ第一収容所では、囚人の懲罰に使われた監房や、ガス室と焼却施設を備えた「クレマトリウム」なども保存されている。マキシミリアノ・コルベ神父が亡くなった地下監房のすぐ側には銃殺に使われた「死の壁」がある。

花がそなえられた死の壁

 アウシュヴィッツだけでもかなりショッキングな展示がたくさんあるのだが、この後さらにビルケナウまでバスで移動してさらに展示がある。ビルケナウはもともといくつか建物があった場所にできたアウシュヴィッツとは違って後に拡大された収容所だそうで、アウシュヴィッツの映像によく出てくる線路がある。

線路のあるビルケナウ。すごく広い。

ビルケナウの慰霊碑。

 ビルケナウのクレマトリムは破壊されている。

破壊されたクレマトリウム

 ビルケナウの収容者は主に女性だったそうである。非衛生的な環境に多数の人が詰め込まれていたため、さまざまな病気が発生してガス室に送られる前に亡くなる人も多数だったそうだ。

女性の収容所。狭いところに大勢の人を寝かせていたそうだ。

 実際に行ってみて、とにかくデカいのに驚いた。3.5時間のツアーでも全ての地区は歩き回れないくらい広い。さらにガイドさんの説明によると、このタイミングで選別が…とかこういう場合は医者が来て…みたいな手続きがけっこうあったそうだ(ただし選別で強制労働に回されて一時的に命が助かっても囚人に対する虐待がひどく、だいたい病気や栄養不良になるので、ガイドさんによるとアウシュヴィッツに来ると9割程度が死亡したと考えられているらしい)。こんな巨大な施設を多くの人を虐待して殺すためだけに作り、さらにいちいち官僚的なプロセスに基づく手順があって、大変な労力をかけて勤勉に運用をしていたということを考えると、あまりにも愚劣でめまいがする。人間もっと怠けて生きるべきだと思った。ファシストにならないよう、気をつけて怠けて暮らそうと思う。

 一方でアウシュヴィッツ=ビルケナウ博物館にも官僚的というか事なかれ主義的なところがある…というか、イスラエルパレスチナでやっていることに関して言葉を濁した声明しか出していないのは事なかれ主義を感じる。「怠けて暮らそうと思う」と言った直後になんだが、ジェノサイドに反対するのが仕事なんだからちゃんと仕事しろよと思ってしまった。