野心的だが、音楽の使い方などに疑問が…Grania

 アビー劇場オーガスタ・グレゴリーのGraniaを見てきた。これは1912年に書かれたがほとんど上演されず、今回のダブリン演劇祭での上演がプロの大きな劇場では初めてとなるそうだ。カトリーナ・マクローリンが演出をつとめている。

 王の娘グレイニアElla Lily Hyland)はかなり年上の有力者フィン(Lorcan Cranitch)と結婚することになるが、フィンに仕える若い戦士ディアミド(Niall Wright)がかつて自分の犬を助けてくれた戦士であることに気付き、ディアミドへの愛を告白する。忠実なディアミドはフィンにグレイニアを守ることを約束して一緒に逃げるが、7年暮らして結局夫婦のような仲になってしまう。ところがそこに変装したフィンがやってきて、ディアミドは戦いのため出て行ってしまう。

 女性が男性同士の絆の中でやりとりされる財産扱いされることを手厳しく批判し、ロマンティックラブですら実際は男性同士の関係の前には消え去ってしまうということを描いた作品である。神話が題材なのだが、恋愛とか結婚に対して非常に冷めた目を向けている。1910年代に上演されなかったのもわかる。

 三層に分かれた秋の野原みたいなセットが使われている。第一幕は火をたかないといけない夜の風景が寒そうなのだが、第二幕では全裸のグレイニアが泳いだり、全裸のディアミドが魚をとったり、まるでエデンの園みだいだ。第三幕は雪の降る寒い景色に戻る。衣装はだいたい現代風である。

 見た目は非常にゴージャスだし、グレイニアの主体性を強調しているのもよくわかるのだが、一方でけっこう演出には疑問が多かった。まず、原作戯曲にない歌い手がふたり出てくるのだが、歌とか音楽は全然いらない…というか、幕と幕の間にけっこう長い歌が入ってアクションが中断されるため、全体のテンポ感がかなり悪くなっているし、また音楽と台詞がかぶって聞き取りづらくなることもたまにあった。全体的にテンポはちょっと疑問で、比較的短い芝居なのに休憩を挟んで2時間20分くらいかかっており、いくらなんでものろすぎでは…という気がした。また、アイルランドで社会問題になっている難民の窮状とか住宅問題によるホームレス増加を放浪するグレイニアとディアミドに重ねようとしているのはわかるのだが、第二幕がまるでエデンの園みたいであることもあり、放浪がややロマンティックに描かれている芝居でそれをやってもトーンの一貫性が減るだけだと思う。やりたいことはわかるし野心的だが、演出にはけっこう疑問のあるプロダクションだった。