わがままでワイルドな女とその恋人~We Live in Time(ネタバレあり)

 ジョン・クローリー監督の新作We Live in Timeを見た。 

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 離婚を控えた青年トバイアス(アンドルー・ガーフィールド)は落ち込んでいたところ車に轢かれてしまう。轢いた当人であるアルマット(フローレンス・ピュー)は新しいレストランを開いたばかりのシェフで、ケガをしたトバイアスを店に招いたところ、ふたりは恋に落ちる。ところがアルマットは卵巣ガンにかかってしまう。最初の発症はなんとか治療で乗り越え、かわいい娘も生まれるが、アルマットのガンが再発する。

 時系列を乱した構成で、何しろ脚本を担当しているニック・ペインは『星ノ数ホド』の作者なので、かなりそれに似ている…というか、『星ノ数ホド』をもうちょっと映像向けにわかりやすくしたみたいな話である。時系列を直線的でない形にすることにより、あの時のああいう決断をしていなければ違う結末もあったのかもしれないが…みたいなことを示唆する要素がある。しかしながら人生は直線で進むので、この時間の流れに抗うことはできない。

 この映画のいいところは、ヒロインのアルマットがだいぶやばい女であることである。バイセクシュアルで元はフィギュアスケート選手だったという優秀な若手シェフで魅力的なのだが、ものすごく競争心があるワイルドな性格で、わがままだし気まぐれだし夫や娘に迷惑をかけるし、難病ものの殊勝なヒロインではまったくない。いつも優しくて、離婚寸前で車に轢かれた時以外はわりと安定した常識的な行動をとるトバイアスに比べると、アルマットは扱いにくいし予想もしにくい変な女である。わがままで変人の夫にかいがいしく尽くす妻みたいな映画がたくさんあることを考えると、こういうダメなところも多いヒロインがちゃんと奥行きを持って提示されている映画はけっこう新鮮だし、とくに難病ものロマンス映画としては非常に面白い展開だと思った。フローレンス・ピューがちゃんとこのわがままなヒロインの心の動きをきちんとわかるように演技で表現しており、どうしてこういう周りの人を困らせる行動をとるのか…みたいなところにも説得力があるのがいい。

 一方で子どもはほしくないと言っていたアルマットが、卵巣ガンになると妊娠機能を保全する治療を選んで子どもを生むというところはあまり展開としては説得力が薄い…というか、お涙頂戴の展開を用意するためのステレオタイプな描写になっているように見えた。アルマットはわりと衝動で行動するタイプの人なので、まあ実生活ではそういう決断をする人もあるだろうという気はするのだが、時系列を乱した展開ともあいまって、お客さんに「ああーっ!それやってはいけない!!」みたいな感情をかき立てるプロット装置としてこの決断が使われているような気もするので、あまりいいとは思えなかった。最初から子どもを欲しがっていたならまあそういう展開もありだと思うのだが、この描き方だと「女性は結局子どもを生みたいんでしょ」みたいなありきたりな展開にも見えるのであまりよくない。

 基本的にはガーフィールドとピューの演技で成り立っている作品だが、脇役もけっこう面白い。アルマットのアシスタントシェフであるジェイド(リー・ブレイスウェイト)とか、ガソリンスタンドの職員として出てくるサンジェイ(ニキル・パーマー)とジェーン(ケリー・ゴドリマン)も良かった。ガソリンスタンドの場面はたぶんこの映画で一番面白いところである。