ピーター・ブルック演出、ブッフ・デュ・ノール『11と12』(11 and 12)

 ピーター・ブルック演出、ブッフ・デュ・ノール『11と12』世界ツアーのロンドン公演を見てきた。


 ブルックの芝居を生きているうちに生で見られるとは思っていなかったのだが、ブルックはどうやらまだ全然元気らしい。というか生で見たのは初めてなのだが、私は面白いと思った(批評家の間では意見が分かれているらしいのだが)。

 
 『11と12』はマリの作家アマドゥ・ハンパテ・バーの作品を演劇化したもので、アフリカのとある国(というかマリだと思うけど)で、お祈りを11回唱える宗派と12回唱える宗派の間で対立が起き、占領しているフランス軍がそれに介入してきたせいでひどい紛争が…という話である。役者は多国籍で、アフリカ人・アラブ人・コーケイジアンの役者(すべて男性)がとっかえひっかえアフリカの人々の役を演じ、音楽を日本人のミュージシャンがいろんな楽器(日本語の歌もあり)を使って演奏するというもの(ミュージシャンの土取利行さんのブログにこの公演の紹介が)。


 全体的に大変寓話的な話になっており、マジックリアリズムの影響が濃いように思った…のだが、一部は実話に基づいているらしいので、これまたびっくり。お祈りを何回唱えるかだけでこんな紛争が起きるとは。


 ステージは砂をばらまいたオレンジ色の絨毯に木や椅子といったシンプルな道具類が置いてあるだけで、それを使って船やらフランスから来た植民地行政官のオフィスやら、いろいろな場所を表現するのだが、この間見たジンバブウェの劇団にちょっと似ているようにも思ったので、これは最近の流行なのか…と思ったが、というかブルックがこの手の流行を始めた最初の人なのかとも思うので、そのへんはあまり自信ない。


 お話は全体として、えらく敬虔である。お祈り11回派の敬虔なムスリムの学者二人が主要な人物として出てきて、「我々は11回のお祈りを行うが、12回祈りを唱える人々を攻撃してはいけない」と考えるものの、片方はその影響力をフランスに危険視されて島流しにあい、もう片方は12回派に対する寛容を説いたせいで同じ派の他の人々から破門されてしまう。全体としては、真の敬虔には寛容が伴うということを説きたかった…のだと思うし、そういうメッセージをあまり説教くさくなく、笑いを交えて面白く伝えるという点では成功している気がした。


 しかしながらこういう「敬虔と寛容を説く」みたいな話は舞台でやるにはかなり危険でもあり、まともに見られる芝居になったのは役者の頑張りによるところが大きい気がする。全体としてテンポはとてもゆっくりしているのだが、このテンポのゆっくりさ(+敬虔さ)がくせ者である。なんとなく見ていて最初のうちは、ブルックもお年で晩年の黒澤明っぽくなってきているのかもという予感がしたのだが、役者が一生懸命動いて笑わせるからあまり気にならないし、要所要所で入る音楽も全体を引き締めているし、別にお年だからテンポがゆっくりというわけではなく、あれはアフリカ的なおとぎ話風の語りを意識してそうなったのかもしれない。いろいろな民族の人たちが同じ舞台で同じ村のアフリカ人を演じていてもちっともヘンに見えないし、ヘタな劇団にやらせると目も当てられない勘違いインターカルチュラル芝居になりそうな気がしたが、そうはなってないところが良い。ベテランが若いのと組んで良い結果が出たという気がする。


 しかし、なんとなく原作はこの芝居よりもずっとすごいのでは…という予感がしたことも事実なので、アマドゥ・ハンパテ・バーの作品を読んでみたくなった。日本語に訳されているのはごくわずかみたいなのだが、この芝居の原作も誰か翻訳してくれないかな…