サドラーズ・ウェルズでマシュー・ボーンの初期作品集である"Early Adventures"を見てきた。演目は短めのを三つで、"Spitfire"(1988)、TownとCountryの二部作になっている"Town and Country"(1991)、"The Infernal Galop"(1989)。
二回休憩があるのだが、なぜかTownとCountryの間に休憩があり、その後Countryの後にまた休憩があって構成が変だった。しかも音声トラブルでSpitfireが終わった後舞台を設営している途中なのにTownの音楽が流れ始めちゃって音楽をかけなおしたりとか、サドラーズ・ウェルズにしてはテクニカルな方面がわりあいお粗末だったような気がする。
最初の"Spitfire"は男性四人が出て来てコミカルな踊りをするというもので、何も知らなくても動きを見ているだけでなんか笑えたのだがこれは実はパ・ド・キャトルという古典的な演目のパロディだそうである。オリジナルは女性四人が可愛く踊るみたいなのだが、それを男性四人で下着モデルみたいな格好で踊らせるというところが面白いらしい。ということはオリジナルを知っているともっと笑える通向けの演目なんだろうな。
"Town and Country"はもうちょっとうちが知っているボーン風で、ノエル・カワードの芝居みたいなシチュエーションで映画のオマージュなんかを使って都会と田舎それぞれを舞台にした小話を作っていくというもの。ひとつひとつの小話のストーリーはよくわからないところもあったのだが、デヴィッド・リーンの『逢びき』を五分くらいで要約する踊りとかは結構ウケた。踊りのうまさは素人なので判断できないのだが、Townのほうのゲイカップルの踊りとか、男性二人で背の高さとか振り付けとか古典的な踊りとは違ってやりにくいだろうに、全くそういうことを感じさせないスムーズな踊りでやっぱりこういう工夫があるからボーンは人気があるんだろうなあと思った。あと入浴する男女がタオルを使って体を隠しながらチラ見せで踊るというほとんどバーレスクルーティンみたいな踊りがあって、1991年にこういうバーレスクふうな振り付けとはさすがボーンはキャンプカルチャーについてのカンが鋭いなと思った。
最後の"The Infernal Galop"は「イギリス人が考えるパリ的なアレ」をわざとデフォルメして面白おかしくやるという作品なのだが、どうせイギリス人がパリについて持っているイメージというのはセックスのことばかりなので、「愛の讃歌」をバックにやたら男女がいちゃいちゃしたり、"La Mer"(英語版じゃなくフランス語のオリジナル)をバックに人魚(男)と水兵が戯れたり、なぜかゲイのハッテン場が出て来たり(イギリス人にとってのパリってハッテン場のイメージなんか…)、最後は定番ということでオッフェンバックの『地獄のオルフェ』ギャロップにのせてカンカン…なのだが、ふつうのカンカンの半分の速度で踊るのでなぜかこれがえらい可笑しい(ちょっとこの効果は口では説明しにくいのだが、本来下の動画みたいな速度で踊る踊りで、音楽はそのまんまの早さで一回のステップを二倍の遅さにしてると考えて下さい)。
まあそんな感じでどれも結構見所があって面白かったのだが、とはいえ三つともえらいハイコンテクストな出し物で元ネタがわからないと楽しめないかもという気はする。『白鳥の湖』や『シンデレラ』は、ハイコンテクストとはいえお話になんかわけのわからない異常な迫力があるので別に全くの素人が行ってもふつうに楽しいと思うのだが(私が初めて生で見たバレエはボーンの『くるみ割り人形』ですごく面白かった)、こういう小品はお話が短くあっさりしている分なかなかわかりにくいところもあると思う。