絵の見方がわからんという人はこれを見よ!若桑みどり強化企画『イメージを読む』&『イメージの歴史』

 2007年に亡くなった若桑みどり先生強化企画ということで、『イメージを読む―美術史入門』(ちくまプリマ−ブックス、1993)と『イメージの歴史』(ちくま文庫、2012)を読んだ。

 

イメージの歴史 (ちくま学芸文庫)
若桑 みどり
筑摩書房
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 『イメージを読む』のほうは講義を一般向けに編集したもので、とにかく入門的でわかりやすい。イコノロジーとかイコノグラフィといった絵画の分析に関する用語の解説から始まり、レオナルドの『モナリザ』などいくつか有名な絵をとりあげ、それを当時としては最新の研究成果を引用しながら自分の分析をまじえて紹介していくというもので、まず選んでいる絵が素人でもなんとなく謎めいてるなとひっかかる絵ばかりでチョイスがいいし、解説も明快だし、絵の見方、とくにルネサンスからマニエリスムの時期の絵の見方がわからんという人はとりあえずこれ一冊あればとっかかりをつかめるだろうと思う。一般向けにはしょっている箇所もおそらくはあるのだろうが、全く美術の知識のない人が最初に読むにはこれで十分だろうと思う。なんというか、中学美術とかではなんだかろくでもない「自由に描く」時間とかをもうけるよりこういうことを教えてほしかったと思った。私は小学校の時、図工の時間がイヤで不登校になりかけたくらい学校美術が嫌いだったのだが、こういうことをもう少し小学生向けに薄めた内容をまず習っていればこんなに美術が嫌いにはならなかっただろうと思う。


 『イメージの歴史』のほうは放送大学の講義に基づくもので、私は若桑先生生前に放送大学でこの美術の授業を趣味で見てたのでわりと覚えていたところも多かったのだが、文字であらためて読み直すとこの本はジェンダーと美術の関わりについてたくさんの重要な指摘を含んでいるなと思った。とくに日本のそのへんにある毎日見かけるような公共彫刻がいかにヌードばかりか、幼女のパンチラばかりかということを論じた最後のセクションは、フェミニズムというのはこういう身近な生活で見かけるものを対象にしないといけないんだなぁとあらためて思った。とくに重要なのは、このセクションではフェミニストは別にこうした表現を禁止したいのではないということが明快に描かれていることである。こういう表現がけっこうな数の女性にとって差別的で不愉快なものだと思われているにもかかわらずそのへんにあることに疑問を呈し批判を行っていくのと、表現狩りをするのは大きく違うという立ち位置がかなり丁寧に説明されていて、これは表現規制問題とかでフェミニストをいっしょくたにしてディスっている人には是非読んでもらいたい本だと思う。