全然イマイチだった〜フレンチポップスに生涯を捧げた男の芸道映画『最後のマイ・ウェイ』

 『最後のマイ・ウェイ』を見てきた。『マイ・ウェイ』の原曲である'Comme d'habitude'を作ってヒットさせたフランスのシンガー、クロード・フランソワの生涯を描いた芸道伝記ものである。そもそも私は「マイ・ウェイ」の原曲がフランスの曲だというのを全然知らなかったし、60-70年代にかけてフレンチポップスに生涯を捧げたスターの話というだけで面白いことは面白い。とくにフランソワはスエズ運河会社で働いていた父親の赴任地であるエジプトで生まれて現地の音楽などを身につけていたがスエズ危機で帰国を…とか、そのへんの背景も面白い。

 …んだけれども、全体的にはかなりイマイチだった。まず編集とか演出が全体的にあまりうまくいってないと思う。これは60-70年代のイエ・イエの時代ザラザラした質感の映像にたまに大袈裟な時代がかった演出をいれてレトロ感を醸し出そうとしてるんだけど(ショックを受けたクロードが手から出血するまでボンゴ?をたたきまくる短い場面とか)、1シーンが最近のヨーロッパ映画風にかなり短くて編集が淡々としてるせいで盛り上がらない。さらにたまに入ってくる手持ちカメラの映像とかもあまり効果をあげてるとは思えない。ほんとにリアルにこの時代を表現したいんだったらもうちょっとMad Menとかみたいな質感にしたほうがいいんじゃない?金かかるのかもしれないけど…

 しかも音楽映画なのになんか監督の音楽の演出センスがかなりおかしいと思う。まず、主人公の出世曲「ベル!ベル!ベル!」を作る過程はじっくり描くのにできあがった曲はフルコーラス聴かせない。さらに主人公がスターダムにのしあがるあたりの描写がえらいすっとばしてて、もっと音楽やライヴ場面を交えて丁寧にしたほうがよさそうなもんなのに「え?」みたいな感じで物足りない。あと、60年代初頭なのにいきなりジャニス・イアンの'At Seventeen'(70年代の曲だよ)のフランス語カバーが流れたりとか…一番良くないのはフランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」の歌のくだりである。この曲は「働いてばかりで恋を知らないアイドル歌手が恋の歌を歌う」ことを皮肉った歌なのだが、実はそれを歌っているフランス・ギャルはクロードと激しい恋に落ちていて…という皮肉をさらに裏返したみたいなことになっており、この曲をじっくり聞かせながらフランスとクロードのキャラを深めることができるはずなのに、クロードはフランスがユーロヴィジョンでこの歌を歌い始めた瞬間、嫉妬でテレビを消してしまう。これではクロードはただのDVサイコ野郎で、なんで可愛くて魅力的なフランスがクロードに惚れてるのかさっぱりわからん。

 というか、全体的にクロードは相当なサイコ野郎なのだが、演出のせいでなんでこいつがそんなに魅力あるのかちょっとよくわからなかった。クロードは酒も薬も賭け事もやらないのだが女だけはダメで、ショービジネスの世界にいてそこそこ才能がある女が好きみたいなのだが、自分よりも相手が成功しはじめると異常に嫉妬し始めるという典型的な精神的DV男である(最初はショーガールのジャネット、二人目はフランス)。三人目はショーガールだけど控えめで自分より成功しなそうな女イザベルを選んで結婚するのだが、イザベルに求愛するのがまるっきりストーカーでいったいなんでイザベルがあんな男を好きになったのかちっともわからんし、その後の家庭生活に対する態度もほんとサイコ野郎で…そのわりにはジェレミー・レニエの芝居が淡泊なせいで、おそらくもともとのクロードが女性に対して持っていたのであろうワルいカリスマがあまり感じられないので、全体的に主人公のキャラに説得力がなく見える。

 ちなみに、フランス・ギャルの'Laisse Tomber les Filles'の動画を探してたらたまたまひっかかったこのSalut Les Copainsというミュージカルのクリップがすごいカッコいい。