Boldでbaldな王を称えよう!〜ジュード・ロウ『ヘンリー五世』

 ノエル・カワード座でマイケル・グランデージ演出、ジュード・ロウ主演の『ヘンリー五世』を見てきた。おなじみのアジャンクールの戦いをめぐるお芝居である。以前から思っているのだが、『ヘンリー五世』は前半はけっこう何も起こらなくてたるい…んだけど、後半は面白い。

 セットはむき出しの木の壁と床で舞台を覆い、大道具を極力減らして空間を広く使う感じで、戦闘場面が多い芝居としてはこういう空間の使い方は効果的だと思った。

 で、ジュード・ロウのヘンリー五世だが、とにかくハゲてるのがいい。ヘンリー五世というと若く荒々しい王というイメージがあるが、皆様ご存じのとおりロウの頭は小島ハゲになってしまっているせいでふつうのヘンリー五世よりも成熟した中年男性らしい感じがある一方、相変わらずの美貌に渋みも加わって、小島ハゲに王冠をのせると堂々としたイングランド王らしくて実によく映えるし、ふつうのヘンリー五世と違った新鮮味がある。以前ハゲニートハムレットを見た時、「頭髪後退もうまく使うとちゃんと演出に意味を持たせられるんだなぁ」と思ったのだが、ジュード・ロウのヘンリー五世はこれにも増して役者がハゲはじめたのを実にうまくプラスに転換していて素晴らしいと思った。まあ、もともとジュード・ロウが誰もが認める美男であるのでハゲても結局カッコいいのだ、ということなのかもしれないが…

 他の点ではロウのヘンリー五世はわりあいオーソドックスなところもあり、荒々しく大胆で、自信に満ちているが時に自らに疑念を抱くこともあり、女性の前ではチャーミングという複雑な男として描かれている。戦闘描写はかなり荒っぽいもので、アルフルール奪還のくだりとかはなんだかもう市民をこづきまわすみたいな感じで今まで見た中でも一番強烈だったと思う。全体的にロウのヘンリー五世は相当荒っぽく無慈悲なハンサムという感じだ。一方でケイトに求愛する場面なんかは笑いに満ちており、またまたふつうのヘンリー五世よりもずっと色男らしくてこのあたりはジュード・ロウの面目躍如という感じである。

 あと面白いのは、全員時代劇的な服装で出てきているのに、コーラス(狂言回し)と少年両方を演じるAshley Zhangazha(アシュリィ・ジャンガジャって読むんだろうか?)だけは現代の服装で出てきているところで、この異化効果は好みが分かれるところだろうが私は大変良かったと思う。一見、英雄的に見えるヘンリーの無慈悲さを浮かび上がらせる効果がある。

 ただ、かなり荒っぽい戦闘演出なんかを含んでいるのにもかかわらず、全体の印象は非常に洗練されている。おそらく異化効果をうまく使っているのと、大きい箱に似合う演出にしているというのもあるのだろうが、ジェイミー・パーカーのパワーで押すグローブ座のヴァージョンやとにかく男男したプロペラ版に比べるとだいぶ重層的で丁寧な演出だと思った。ただ、『ヘンリー五世』がそもそもかなり荒っぽい戯曲だということがあると思うので、そういう演出がこの戯曲に似合うのかどうかは議論の余地があると思う。とはいえ、とても面白いプロダクションだった。