あっと驚く諷刺オチ〜ダニエル・シュミット回顧上映『ベレジーナ』(ネタバレ)

 ダニエル・シュミットの回顧上映で『ベレジーナ』を見てきた。

 主人公はロシアからスイスに移民してきた若き美女イリーナ。市民権ほしさに有力者に取り入りたいイリーナを、デザイナーで取り持ち屋でもあるシャルロッテが高級娼婦として男どもに紹介する。ところがスイスの有力者どもはあまりにも変態でふつうのセックスをあまりしない上、イリーナも無邪気で世間知らずすぎて自分は騙されているとか売春をしているという意識がない(売春というよりかドミナトリックスなのだが)。ところが有力者たちと付き合う中でイリーナはスイスを揺るがすような国家的陰謀に巻き込まれてしまい…というのがあらすじ。

 基本的には政治諷刺ブラックコメディなのだが、自分がドミナトリックス業をしていることすら気付かない頭の足りないイリーナやら、腐敗しきったスイスのお偉方やら、本気かと思うようなヘンな民兵組織やら、ツッコミどころ満載…なのだが、おそらくスイスの人が見るといろいろ何がネタなのかわかったりして痛いところがあるんだろうと思う。そういう意味では、ツッコミどころ満載だが日本の社会のコンテクストにあてはめると意味があるような気もしてくる『図書館戦争』とかをもっとずっと徹底的にスイスでやった、みたいな映画なのかもしれない(だいぶこちらのほうが辛辣で出来が良いと思うが)。

 とりあえず見ている間は「黄金の心を持った娼婦」で頭がゆるすぎるイリーナにイライラしてたのだが、落とし方に驚愕…とにかくオチが一番面白い。女王のドレスでキラキラ輝くイリーナの華やかなこと。この落とし方は「スイスは腐敗しきった政治家よりもそのへんの田舎娘に支配されたほうが全然マシ」+「スイス人はクーデターがあろうが何だろうが権力にすり寄って生きていくのが好き」っていうシュミットの皮肉なんだろうなぁ…あと、こういう「権力にすり寄る」「腐敗もなあなあ」って、わりと日本にもよくある感覚な気がしたんだが、小国特有の処世術なんだろうか、とか思ってしまった。