夏休みに「英語圏文化について知りたい人向けの、夏休みのブラックリスト10点(書籍+映像作品)」を実施したところ好評で「またやれ」というご意見があったので、冬休みもやろうと思う。しかしながらただやるだけでは面白くないので、冬休みらしく休むためのブックリストを作ろうと思う。
冬は寒い。雪も降るし風も吹く。外になんか出たくはない。さらにクリスマスと正月もあるので、にぎやかなことが好きな人は仕事なんかしないで遊びたいし、鬱気味の人は祭りなんかほっといて引きこもりたいところだ。遊ぶにしても引きこもるにしても、やはり働きたくない。
なんといっても世の中の人はあまりにも勤勉すぎる。政治的立場に関わらず、保守派だろうがリバタリアンだろうが社会主義者だろうがフェミニストだろうが、我々は働くことで自己実現でき、全てがよくなるかのような幻想にとらわれているように見える。どこを見てもやれビジネスだ、やれ実用性のなんたらだのと、とにかく皆働いて金を稼ぐことが好きだ。政治家の経済政策は常に労働者をこき使うことを考えているし、一方で労働者のほうも働く権利とか、失業者に仕事をとか、やりがいのある仕事をとか訴えている。
しかしながら本当にそれでいいのだろうか。こんなに景気が悪くて労働も不安定な世の中だが、冬に休める時くらいは大声で「仕事なんかクズで害悪だ!」「本当は人間皆働きたくなんかない!!」と叫んで、働かないことの重要性、労働がいかに害悪で人間の精神と身体をむしばむかについて真面目に考えてもいいのではないか。常々思っていることだが、私は心から労働が嫌いであるし、労働による自己実現とかちゃんちゃらおかしい話にしか聞こえない。しかしながらその労働に対する反感をきちんと解明し、人に説明するためには勉強がいる。そう、仕事をサボるのにも先行研究調査が必要なのだ。仕事をサボることについて勤勉に考えよう。そんな時のためのブラックリストを作った。
・ポール・ラファルグ『怠ける権利』田淵晋也訳、平凡社、2008。
ラファルグはフランスのマルクス主義者で、マルクスの娘と結婚している。原著は1880年に出たそうで、働くことの害悪を指摘した古典的名著である。我々の労働幻想を機知に富んだ手法でブチ壊してくれる。この本の労働拒否的観点からの売春批判はフェミニストも必読だ。
・バートランド・ラッセル「怠惰への讃歌」、堀秀彦・柿村峻訳『怠惰への讃歌』(平凡社、2009)収録。
短い文章だが、これも哲学者による労働排撃論である。ラファルグ同様、労働嫌いの観点からの売春批判が入っていている。
・ヴェルナー・ゾンバルト『恋愛と贅沢と資本主義』金森誠也訳、講談社学術文庫、2000。
原著は1912年に出ている。今読むと古くなっているところもあり、また女性史的観点からの批判が必要だと思うのだが、とはいっても恋愛と贅沢によって資本主義が発展したっていう話である!働くなんておこがましくなってくるね!!
・ソースティン・ヴェブレン『有閑階級の理論』高哲男訳、ちくま学芸文庫、1998。
1899年に出たようだ。もうちょっとまじめなゾンバルトって感じである。衒示的消費についてワケわからないまましゃべってボロが出る前に、有閑気分で読んでおいたほうがいい。
・ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』(1947、邦訳多数)&ミシェル・ゴンドリー監督『ムード・インディゴ〜うたかたの日々』(2013)
労働することのみじめさ、つらさを如実に描いた小説&映画である。
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・アーヴィン・ウェルシュ『トレインスポッティング』(1993)&ダニー・ボイル監督『トレインスポッティング』(1996)
働きたくないけど、でも働かざるを得ない…という複雑な心境に関する物語だと言って良かろう。そしてサッチャーはクズだ。
・ウィリアム・シェイクスピア『ヘンリー四世』第一部&第二部(16世紀末頃、翻訳多数)
この二作で最も魅力があるのはフォルスタッフである。フォルスタッフはとにかく怠け者でこずるくて遊んでばっかりだが、際限ない機知を持っており、おそらく英国で最も愛されているフィクションの登場人物の一人だ。我々が怠けることに対して感じる魅力の全てがこの酔っ払いのデブのおっさんに詰まっている。
・ジョエル・コーエン監督『ビッグ・リボウスキ』(1998)
ロサンゼルス最強の不精者であるリボウスキの活躍があまりにも素晴らしいため、最近この映画はアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。この映画にインスパイアされたスラッカーなライフスタイルのことをDudeismといい、英語圏には多数の信奉者がいる。
本来はここで全体に関する分析などをすべきなのだろうが、怠けたくてたまらないのでかわりにオアシスの怠けソング'The Importance of Being Idle'のビデオを貼って終わりにする(ちなみに一点だけ。フェミニスト的労働批判で日本で手に入りやすいものがあまり見つからなかったんだが、誰かいいの知りません?)。