歌って踊る、川崎市アートセンター『恋の骨折り損』

 川崎市アートセンターで河田園子演出『恋の骨折り損』を見てきた。この演目は一度手話の舞台で見たことがあってそれがめちゃめちゃ面白かったのだが、日本語で生で見るのははじめてだと思う。

 歌や踊りを取り入れているところはケネス・ブラナー版の『恋の骨折り損』に似ているが、ギターの生演奏などが入るこの舞台はもうちょっとシンプルな感じである。真ん中に取り外し可能な穴(奈落みたいなものだがちょっと小規模)があるやや斜めの床を下に設置し、四隅の上にはキューピッドの像があるセットで、あまり大道具などの入れ替えはない。一番目を引くのは衣装で、基本的に現代風のワンピースやらズボンやらなのだが、非常に凝ったものである。フランスの四人娘とナヴァールの四人男については恋人になる同士で着ている服の色を統一しており、誰と誰が愛し合うのか、一目で相性がわかるようになっている。単純な発想に見えるが衣装じたいのセンスがかなり良く、フランス王女が着ているピンク、紺、白が基調のモンドリアンの絵みたいな60年代っぽいワンピース(サンローランを思わせる)にナヴァール王のさりげなくピンクをあしらった紺と白の衣装が並ぶあたりはとてもセンスがよいと思った。

 着ているもので色分けされているだけあって男性陣も女性陣も個性的でキャラきちんと演じ分けられており、四組も恋人ができる群像恋愛劇としては平べったくならずにうまくまとめた感じになっていて、なかなか良かったと思う。『恋の骨折り損』はシェイクスピア劇の中でもかなり言葉が豪奢で台詞なんか覚えにくいのではと思うが、松岡訳を使っていてかなりわかりやすく笑えるところはちゃんと笑える。とくにフランス娘たちが男性陣からもらった贈りものを前に悪巧みをする場面なんかは、カラフルな贈りものの箱のデザインなども相まってとても軽妙だし、女たちの親密感がよく出ていたと思う。皮肉だがそんなに暗くはならない終わり方も良かった。

 と、いうことで、私は大変面白かったのだが、おそらく私はこの芝居、演目自体がけっこう好きなんだろうと思う。読んでいるだけだとよくわからなくても、実際に見ると洒脱なところが多く楽しめる戯曲だと思う。