垢抜けないジョージとやさしいレニー~東京グローブ座『二十日鼠と人間』

 東京グローブ座で『二十日鼠と人間』を見てきた。鈴木裕美演出で、言わずと知れたスタインベックの有名作である。この芝居は既に一度見たことがあり、wezzyに論考も書いたことがある。

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 全体としてNTライヴ版からの影響があるようで、作り込んだセットや丁寧な演出などは似ていると思う。ただ、クルックス(池下重大)の家などを中心に屋内部分はNTライヴ版よりもちょっと小さく、色使いなどを貧乏くさくして、よりわびしい感じにしようとしているように見えた。また、できるだけ開けた感じでセットを組もうとしているようで、壁とか藁とかで空間をややはっきり仕切る感じにしていたNTライヴ版に比べると、役者が歩いて動き回れるスペースを多少、増やしているように思える。一方で冒頭と最後の川辺にジョージとレニーがいる場面だけはほぼ全面が壁で覆われているので、見た目の圧迫感が際立つ。

 

 NTライヴ版と一番違うと思ったのは、主人公のジョージ(三宅健)が驚くほど垢抜けない田舎のにいちゃんだということだ。NTライヴ版のジェームズ・フランコは、なんだかんだで色男っぽい図々しい脂っ気があり、口では恋愛なんかしないようなことを言ってるくせに、実は田舎の村娘とかと何かあって女に懲りてるんじゃないの…みたいな感じがした。しかしながら三宅ジョージは(ここを褒めていいのかよくわからないが)、ジャニーズの役者とは思えないほど色男感がなく、機転は利くのだが疲れ切った青年で、いつもイライラした感じで社交も比較的苦手そうだ。スージーの店から帰ってきた場面などは、きっとまったく娼婦にモテなかったのだろうと思ってしまった。ただ、この華やかさのない疲弊した感じのせいでリアルさが増していると思う。序盤はちょっと演技が堅かったように思うのだが、終盤はけっこう調子があがって、レニーを殺さなければならないとなった時に疲れた顔に浮かぶせっぱつまった表情にはとても哀切なものがあった。

 

 このプロダクションでは、むしろレニー(章平)のほうが楽天的で無垢なため、ジョージよりハンサムというか女の子に好かれそうな明るくやさしい雰囲気があり(章平は『テイク・ミー・アウト』のダレンだもんねぇ)、カーリーの妻がレニーに興味を示すのにも説得力がある。カーリーの妻(花乃まりあ)は明らかに場違いな美人なのだが、世間知らずなところはレニーとどっこいどっこいで、軽薄なところはあるがとてもかわいそうな女性である。カーリーの妻はただのイヤな女になってしまいやすいと思うのだが、このプロダクションでは比較的同情できるキャラクターだったと思う。

 

 ひとつだけちょっと疑問に思ったのは、最後、ジョージがレニーを撃つところは、私はもっとジョージがレニーに寄ったほうがいいんじゃないかと思った。これは私が上の席だったので見た位置が悪かったのかもしれないのだが、やたら遠いところから撃っているように見えてちょっと位置関係が不自然に思えた。ジョージの悲しみを表すためにも、なんかもっと物凄くレニーに寄って撃ったほうが効果あるのではないかと思ったのだが…