ファイファーとアンジーがケンカするコメディにすべきだったのでは?~『マレフィセント2』(ネタバレあり)

 『マレフィセント2』を見てきた。

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 前作の最後に妖精の国の女王になったオーロラ(エル・ファニング)がフィリップ王子(ハリス・ディキンソン)ととうとう正式に結婚することになるところから始まる。ところがフィリップの母である妖精嫌いのイングリス王妃(ミシェル・ファイファー)は陰謀を企てており、この機に乗じて夫である王やオーロラの養母であるマレフィセント(アンジェリーナ・ジョリー)を退け、権力を手にすることを狙っていた…

 

 大変前評判が悪かったのでどれだけひどいかと思ったのだが、『ジュピター』や『ヴァレリアン』に比べりゃそこまではひどくない…というか、まあもっとひどいファンタジー映画はたくさんある。全体的に妖精の国を見せるための技術に全てをつぎ込んで脚本が完全におろそかになった感じで、話はめちゃくちゃである。ただ、客をナメてるとかいうような嫌な感じがする映画ではない。何かやる気はあるのだが、詰め込みすぎて大失敗しているらしいことはわかる。

 

 とりあえず、「なんでそこはこうなるんだ?」というような説明不足な場面が多い。とくに終盤がかなりひどく、オーロラがイングリスの衣装部屋に入っていくあたりからは理屈が一切消滅してしまう。なんでオーロラがいきなり衣装部屋に入ったのかとか、糸車に近付いただけで全部わかったのはなぜかとか、フィリップに経過を説明するところでなんであの説明でフィリップがちゃんと状況を理解してくれたのかとか、どうして突然王妃に仕えていたリックスピットルが改心したのかとか、このあたりは相当に崩壊している(脚本段階では何か辻褄合わせのプランがあったのかもしれないし、「こうかも」っていう想像ができないわけではないのだが、見ているだけだとよくわからない)。さらに最後、かなりの死傷者が出る悲惨な戦闘があったのに、突然結婚式のお祝いムードに流れ込んでしまうあたり、いったいこいつらは何を考えているのかと思ってしまう(融和のための結婚式は数日後でもできる!ケガ人の治療と死者の弔いが先だろ!!)。

 そして、こういう説明不足ですっ飛ばしすぎの箇所がたくさんある一方、全く不要と思われる場面もわりとある。ハリネズミの妖精のくだりはまるごと要らないのではないかと思うし(可愛いだけで話にほぼ貢献していない)、結婚式の告知が妖精の国に伝わるところをそんなにしっかり撮る必要があるのか…?とか、そういうところの尺を短くしてそのぶん説明に割いたほうがいいだろうと思った。あと、コナル(チュイテル・イジョフォー)はただのマジカルニグロじゃなかろうか…

 そして、せっかくミシェル・ファイファーアンジェリーナ・ジョリーの魅力的な大人の女優対決なのに、ファイファー演じるイングリスの迫力がイマイチ欠けているのが問題だ。なにしろアンジー演じるマレフィセントがかなりのコワモテである一方、ファイファーは若くて尖っていた頃に比べると成熟したぶん物腰が優しくなってイイ人キャラっぽくなってしまっているところがあり(『アントマン&ワスプ』とかでは非の打ち所がなく良い人だった)、そのへんのバランスを考えた脚本になっていない。ベクデル・テストはイングリス王妃とゲルダが話すところでパスする。

 

 ただ、人付き合いの苦手なマレフィセントがフィリップ王子の両親との顔合わせのためお城に招かれ、ディアヴァル(サム・ライリー)に手伝ってもらって挨拶の練習をするところとかは面白かったし、その後の宮殿での会食場面も、片親家庭で養母でもあるマレフィセントがイングリスにイヤミを言われるあたりまではなかなかリアルだったと思うので、たぶんこの路線でちょっとブラックかつおバカなご家族コメディとかにすべきだったのではないかと思う。可愛いオーロラが珍しくてちやほやするが、妖精の国や片親家庭に対する偏見が強固なイングリスと、それが気に入らないマレフィセントがくだらないこと(ウェディングドレスのデザインとか、結婚式の細かい式次第とか)でケンカしまくるものの、最後は苦労人の女同士親友になる…みたいなのをちょっとアホっぽく誇張した話とかならもっと面白かったと思う。