内容は面白いが、撮り方に一工夫必要~NTライヴ『フリーバッグ』

 NTライヴで『フリーバッグ』を見てきた。フィービー・ウォーラー=ブリッジによる同名ドラマの原作になった舞台で、一人芝居である。

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 ドラマ版のヒロインであるフリーバッグは、とにかくまったく人好きのしない女で、かなり人格に問題があり、あまり友達とか家族にしたくないタイプである。今まであまりいなかったタイプのヒロインで、そもそも男性でもここまで困った人が単独主人公のテレビドラマはそこまでたくさんないのではないかとも思う(ドクター・ハウスやアラン・パートリッジといい勝負かも)。しかしながらこのフリーバッグは欠点だらけの難しい人物である一方、ユーモアがあってすることなすこと面白く、人間らしい感情や悩みも山ほど抱えており、厚みを持って描かれている多層的なキャラクターだ。

 この一人芝居は80分くらいの短いものなのだが、内容はだいたいドラマ第1シーズンのメインプロットと一致する。やってるカフェはつぶれそうだし、家族との関係も問題だらけだし、たぶんセックス依存症かなんかで、ハチャメチャな生活を送っているフリーバッグの内面を下ネタと笑い満載で描くものだ。最後になんでフリーバッグがこんなにメチャクチャなのかということが推測できる悲劇的な事件の種明かしがあり、プロットもよくできている。

 椅子に座ったフリーバッグが身振り手振りを交えて話すだけの芝居なのだが、間の取り方が絶妙で笑いのツボをおさえた演技で、すごく笑える。特に良いのは、フリーバッグが両ヒザを離して足を開いて座っていることだ。フリーバッグの身体は、いわゆる伝統的に女性らしいとされているきちんとしたあり方とはかけ離れたもので、独特の風変わりなリアリティがあるのだが、座り方がそれを象徴している。途中でフリーバッグがフェミニズムの講演会で「人生の5年と完璧な身体を交換できるならどうする?」と聞かれて「完璧な身体」を選んでしまうところがあるのだが、フリーバッグには完璧な身体はあり得ない…というか、完璧とはかけ離れているからこそ厚みのあるキャラクターとして提示されているのだと思う。

 ただ、ちょっと問題だと思うのは、これはNTライヴ初の一人芝居で、撮り方の工夫が足りないのではないか…ということだ。この芝居はもともとエディンバラフリンジで上演されたらしいのだが、そもそも小さい小屋で、ちょっと飲んでいるような観客の前で上演することを想定した作品だと思う(この手の一人芝居はエディンバラでもロンドンでもけっこう見かける)。そういうお芝居ではお客さんと舞台の間の親密感が重要になるので、そもそも撮影して映画館で上映するにはあまり向いていないタイプの作品だとも言える。そしてこの『フリーバッグ』、上演中に客席が映る場面は数回しかなく、フリーバッグが面白いことを言ったりしたりしても笑い声が入るだけで、客席の反応があまりわからない撮り方になっている。たとえばアメリカのスタンダップコメディとかが映画やドラマで映る時はだいたい客席が沸くカットとかが入ると思うのだが、この手の芝居は客席が笑うカットを入れて編集しないと、舞台と観客の間の親密感みたいなものが味わいにくくなるんじゃないかと思う。観客席を頻繁に映すのは権利上難しいのかもしれないが、次に一人芝居をラインナップに入れるようなことがあれば是非、そういう工夫をやってほしい。