終盤は素晴らしいが…『フェイクスピア』(ネタバレ注意)

 野田秀樹『フェイクスピア』を東京芸術劇場で見てきた。

www.nodamap.com

 イタコ見習いを50年も続けているアタイ(白石加代子)のところに口寄せ依頼がダブルブッキングとなるところから始まる。謎の箱を持っている何だかよくわからない男モノ(高橋一生)と、誰について口寄せしてほしいのかがイマイチ最初ははっきりしないアタイの元同級生であるタノ(橋爪功)が口寄せ依頼をしてくる。タノが娘とか妻とかの口寄せを依頼するのだが、なぜかそのたびにタノとモノが憑依のようにシェイクスピア劇の一節をやるようになってしまい…

 序盤のモノとタノが演じるシェイクスピア劇の一節が大変良くて、高橋一生はさすが蜷川シェイクスピアの元女役だと思った(デズデモーナとかコーデリアとかを本格的に一度やるべきでは…)。種明かしは途中のほのめかしなどで結構最初からピンとくる感じなのだが、終盤のところはかなり演出がすごいというか(以下ネタバレ)、飛行機の中をこんなふうに表現できるとは…と非常に感心した。台詞はほとんどわからないというか、たぶん本物の通信内容に近いものを使用しているので技術的な発言が多いのだが、それがかえってリアルである。正直、このあたりの表現のしかたは同じ「再現」ものでもこの間見た『タウンホール事件』に比べてはるかに気取った感じがせず、ストレートな表現方法で良かったと思う。

 ただ、コトバというテーマ系をシェイクスピアなどに絡めて…というところでは、野田版夏夢のほうがはるかにスマートにやっているように思う。野田版夏夢はわりとすっきり原作を消化しているのだが、『フェイクスピア』のほうはけっこういろんなものを詰め込みすぎて消化しきれていないような印象を受けた。こういう詰め込んだ感じが野田の作家性だというのはわかるのだが、夏夢のほうが整理はしっかりしていたと思う。