前作よりずいぶん良くなった~『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』

 『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』を見た。前作とは監督が替わってアンディ・サーキスになり、脚本に主演のトム・ハーディもかかわっている。

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 前作の後、エディはヴェノムと2人で楽しく暮らしており、ヴェノムの助けで殺人鬼クレタス(ウディ・ハレルソン)の調査もうまくいった…が、クレタス絡みのトラブルから2人は仲違いし、ヴェノムはエディとの共生を解除して家出してしまう。ところが死刑になるはずだったクレタスはエディとの面会の際にヴェノムの血液を摂取したことが原因で、新しいシンビオートであるカーネイジが生まれ、クレタスは脱獄する。クレタスは音声攻撃能力を持っているため長きにわたり引き離されていた恋人フランシスを救出し、エディたちを狙うが…

 前作はキャラの大きな魅力だけでなんとかもっているような緩い話で映画としての出来は全然良くなかったのだが、続編はとにかく話を単純にし、エディとヴェノムの関係など前作の良かったところは強調する一方、短くスピーディにまとめている。そのせいで前作よりもだいぶマシになっており、緩い話ではあるものの出来はずいぶん向上している。やはりモーションキャプチャの達人でこういう映画の勘所がわかっているサーキスと、本シリーズを気に入っているらしいハーディがスタッフとして本格的にかかわっているのが良くなった原因かと思う。

 全体的に、予想したよりもずいぶん子どもが喜びそうな映画になっている。残虐描写は前作よりも控えめで、どちらかというとカーネイジの身体が伸びるとか、荒唐無稽で派手な描写が強調されている。このへんの描写は気味悪いというよりはわちゃわちゃしていてナンセンスな雰囲気もあり、エディとヴェノムのどつき漫才みたいな描写とも相まって『トムとジェリー』なんかのカートゥーンみたいである。また、メッセージがやたらにポジティヴで、へんちくりんで暴力的なアクションがたくさんあるのに、最後は真の友人であってもケンカすることがあるが、お互いを思いやるのが大切である…というようなところにまとめている。

 とくに可笑しいのは、ヴェノムがエディと別れていろいろな人物に寄生し、サンフランシスコでパーティに出るところである。ここで、どうもヴェノムは短時間ならいろんな人に寄生できるらしいのだが、長時間の共生は無理(エディみたいに適合しないとダメ)らしいことがわかり、前の映画でいい加減だったところがわりと整理されている。それでヴェノムは人間ではないヴェノムの姿のまま、リトル・シムズが出演する仮装パーティ(見た感じ、たぶん場所はゲイクラブとか、ゲイクラブじゃなくてもセクシュアルマイノリティに人気があるようなクラブではないかと思う)に出るのだが、ヴェノムはイケてる仮装としてみんなに褒められ、いい気になってステージに上がり、エディにひどいめにあわされたがこれからはエイリアンでも自分らしく生きていきたいというようなことを言って喝采を浴びる。ヴェノムは共生のことを言っているのだが、たぶんお客さんは「エディ」というクローゼットなボーイフレンドが、デカくてたぶん移民で風変わりな仮装とかにハマっている彼氏のヴェノムのことをひた隠しにしており、踏みつけにされなくないと思ったヴェノムがカムアウトしたのだと推測するだろうなーと思う。ここはコミカルである一方、サンフランシスコのポジティヴな雰囲気がよくわかる楽しい場面で、またエディとヴェノムのなんかクィアな関係を象徴しているところでもある。この後でヴェノムはあんまり合わない相手に寄生したせいでへろへろになってチェンさんに助けを求めるのだが、チェンさんがけっこう活躍するのも嬉しいところだ。

 ただし、作中にはけっこう緩いところもある。ウディ・ハレルソンがまるで『ナチュラル・ボーン・キラーズ』みたいなのはいいのだが、相手役なナオミ・ハリスでは若すぎて、この2人が同じ施設で同年代の子どもとして育ったという設定はちょっと強引だと思う。クレタスがなぜエディを呼びたかっているのかとかもあんまり掘り下げられていない。また、アン(ミシェル・ウィリアムズ)がヴェノムをお色気でちやほやしておだてるところはちょっとヴェノムがバカに見えすぎる。