年末の家族の集まりで急にこのままじゃヤバいんじゃないかと思い始めた若者の話~『グリーン・ナイト』

 デヴィッド・ロウリー監督『グリーン・ナイト』を見てきた。

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 14世紀に中英語で書かれた著者不詳の詩『ガウェイン卿と緑の騎士』を原作とするファンタジーである。アーサー王の若き甥ガウェイン(デーヴ・パテール)が、クリスマスに突然やってきた緑の騎士と決闘をしたおかげでとんでもないゲームに巻き込まれるというお話である。ガウェインは緑の騎士の挑戦に応じて相手の首を切り落とすのだが、自らの名誉のため、緑の騎士と約束したとおり、翌年のクリスマスには今度は自分が騎士から一撃をくらうべく、待ち合わせ場所である緑の礼拝堂まで旅をすることになる。

 …というあらすじを書くととんでもなくヘンな話なのだが、これはまさに、今の感覚ではわかりにくい中世の騎士が出てくるおとぎ話をそのまま映画化したものである。お話じたいはいろいろスマートにするため原作から変えられているのだが、見終わった時の感覚は、(『ガウェイン卿と緑の騎士』に限らない)中世のお話を読んだ後の「なんだったんだろう、これ…」という不思議な感覚に大変よく似ている。あんまり現代風にしようとせず、中世の騎士がいかに名誉にこだわっているかというようなことをそのまま描いている。つじつまがあっているのかもわからないし、いろいろへんてこりんで別世界の話なのだが、一方でなんかクスっと笑えたり、わかるところもある。少なくとも私が今まで見た中世ものの映画では『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』の次くらいに中世文学の読後感に近いと思う感覚が味わえる作品だった。 

 主人公のガウェインはアーサー王ショーン・ハリス)の甥で、著名な魔女である王妹モーガン(サリタ・チョウドリー)の息子なのだが、まだ何の手柄もなく、ハンサムで感じはいいのだが、せいぜいガールフレンドのエセル(アリシア・ヴィキャンデル)とイチャイチャすることくらいしか考えていない若者だ。ところが、クリスマスの宴席でアーサーに呼ばれたのに披露できる面白いネタもなく、妙にしんみりしてしまったガウェインは、突然宴席にやってきて挑戦を行った緑の騎士に対して、その場のノリみたいな感じで挑戦を受けてしまう(この、へらへらして何も考えていないようでいて変なところが真面目なのが今作のガウェインの特徴だ)。この場面のガウェインはまるで年末に家族の集まりに行き、他の親族はいろいろ活躍しているのに自分は何も話のネタがなく、そろそろ何かしないといけないと急に焦り出す若者みたいな感じである。そういうところは妙に現代的なのだが、何しろガウェインは中世の騎士志望の若者で現代の青年ではないので、バイトや受験勉強を始めたりするのではなく、名誉のために翌年、クリスマスに緑の騎士と再会するための旅に出る。しかしながらこのガウェインは理想化された騎士とはほど遠いどこにでもいる近所のにーちゃんみたいな若者であるため、旅の間もさっぱり活躍できない。はるかに世慣れた追いはぎ(バリー・キョーガン)の襲撃とか、聖女ウィニフレッド(エリン・ケリーマン)の幽霊によるお願いとか、ガールフレンドに似た奥方(アリシア・ヴィキャンデルの二役)のお色気攻勢とか、しゃべるもふもふキツネとの遭遇とか、いろいろな大変な目にあい、どれにもへっぴり腰で対応してなんとか生きのびる。

 こう書くとなんだかコメディみたいだが、全体的にはけっこうシリアスな雰囲気で映像も美しく、タッチはわりとドライ…というか、淡々としている。ユーモアはないわけではないが、全体的には主人公のガウェイン同様、ミョーな感じに真面目な雰囲気の映画である。最後の最後にけっこう凝ったフラッシュフォワードがあるのは面白かった。