『ドリーム・ホース』を見た。『シャーロック』『トーチウッド』『ドクター・フー』などの仕事をしていたユーロス・リン監督によるウェールズ映画で、実話をもとにしている。
2000年代頃のウェールズの谷間にある田舎の村が舞台である。昼はコープの店、夜はパブで働くジャン(トニ・コレット)は、かつてはレース用の鳩を飼っていたが今はもう鳩がおらず、夫のブライアン(オーウェン・ティール)は家でテレビばかり見ていて会話もない。ところがパブでかつて競馬馬を共同所有したことがあるという会計士のハワード(ダミアン・ルイス)に会い、村の人たちと競馬馬を所有するという夢を持つようになる。ジャンはハワード、ブライアンとともにすぐこの計画を行動に移す。
90年代半ばから2000年代初頭くらいに流行った『フル・モンティ』や『カレンダー・ガールズ』などを思わせる、イギリスの地方の人々が行き詰まり気味の人生をなんとかするため新しいことにチャレンジする様子を描いた作品である(というか、この手の映画は『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』とか『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』とか、継続的に今も作られているのだが)。これは実話ベースで、金持ちしか持てないと思われている競馬馬を共同所有することで崩壊しかけていた地方コミュニティにだんだん活気が戻ってくる様子を描いている。ヒロインのジャンは人生に疲れており、どうにかして新しい生き甲斐を…というような個人的な理由で馬を飼おうとするのだが、とんでもなく行動力があり、思いついたらすぐ実行する。そのおかげで周りの人たちも影響されていくのだが、ほとんどはワーキングクラスからロウワーミドルクラスで失業同然だったりもするような馬主たちが(経験者で一番階級が高くリッチだと思われるハワードでも会計士である)、協力して頑張った結果、格式の高い競馬レースで貴族の馬に勝利するというところがイギリスの階級社会の中ではけっこうな逆転劇で、スカっとするところがある。
全体的にはけっこう面白かったのだが、二箇所ちょっと気になったところがあった。ひとつめはハワードが妻に相談せずいろいろやりすぎで、それがけっこうなあなあになってしまうというところである。ハワードは一度、共同馬主になって破産しかけたことがあり、そのせいで妻とはもう競馬ビジネスにかかわらないと約束していたらしいのだが、また黙って共同馬主になった上、さらに仕事までやめてしまう。感じが良くてハンサムなダミアン・ルイスがやっているからなんとなく流れてしまうが、ハワードは実は相当に身勝手な困った人なんでは…という気がするものの、そのへんがちゃんと掘り下げられていない。
もうひとつ気になったのは、最後に「デライラ」を使うのはちょっとダサいような気がするということだ。途中でカラオケで歌われており、さらにこれを歌ったトム・ジョーンズはウェールズ人でわりと近くの町の出身であり、また「デライラ」はスポーツでファンが歌う歌でもあるのでチョイスとしてはおかしくない…のだが、歌詞が問題だ。この歌は恋人が浮気していると気付いて逆上した男が女性を刺し殺すという内容で、これまでもスポーツで使われる時に問題になってきた。わりと爽やかめに終わるのにそういう歌詞の歌でしめるのはちょっとどうかねぇ…と思う。