実は子育てを頑張ろうという映画~『コカイン・ベア』(ネタバレあり)

 エリザベス・バンクス監督『コカイン・ベア』を見た。

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 舞台は1980年代のアメリカである。密輸用飛行機からコカインがぶちまけられてしまい、包みのままチャタフーチーのブラッド山にある国立公園に落下する。行方不明のコカインを探す犯罪一味と警察が出動する一方、国立公園の職員たちは迷惑行為をする不良少年どもや迷子に手を焼いていた。ところがブラッド山の中ではクマがコカインを食べ荒らし、ものすごくハイになって人間を襲撃し始める。

 完全にB級映画だしツッコミどころは満載なのだが、ハイになって暴れるモンスター動物であるはずのクマにけっこう同情的なところが本作の特徴だ。クマは大変怖いし、何しろハイなので異常な行動をとるのだが、もともとは人間がコカインなんかを山にぶちまけるのが悪いんだし、またクマの生息域を尊重せずにずかずか入っていくギャングや悪ガキどもの態度もあんまりよろしくない。クマのほうは2匹の子グマを育てている母親で、子グマたちは可愛いし、みんな野生動物として当然の行動をとっているだけである。人間で主人公格なのが、迷子になった娘を守ろうとする看護師の母親サリ(ケリー・ラッセル)と、妻を亡くして息子の面倒すら見られないくらい落ち込んでいる寡夫のエディ(オールデン・エアエンライク)なので、このサリやエディとハイな母グマにはトラブりつつ子どもを心配している親という意味で共通点があるような感じもする。最後は「親は強し」みたいな感じでちゃんと子どものことを考えていた人たち(+動物)が生き残り、一方で未成年者を気遣ったり家庭や友人を顧みたりしない人は死亡するという形でキレイに落としている。子育てをする親の自覚の重要性を説く作品とも言えるのだが、どの親もいろいろ問題アリだけど子どものためには頑張ってます…という話で、母親だけではなく父親も出てくるし、まあこのめちゃくちゃな設定・展開でそんなに説教臭くなるわけもないので、あんまりイヤな感じがなく楽しめる。

 エリザベス・バンクスが監督だからなのか、けっこう女性陣が活躍する映画でもある。サリはもちろん森林レンジャーのリズ(マーゴ・マーティンデイル)が序盤で活躍する。リズが途中まで生き残ったのはちょっと嬉しかったのだが、結局けっこうひどい死に方をしてしまったのは残念である。