けっこうな野心作~こまばアゴラ劇場『オセロー』

 こまばアゴラ劇場で滋企画『オセロー』を見てきた。ニシサトシ演出による作品である。

 パイプ椅子くらいしかない舞台で、登場人物は赤ジャージなど現代の衣装を着ている。小道具もハンカチ程度である。5人だけのとても小規模な舞台で、1人で複数の役を演じたり、逆に複数人でひとりの役を演じたりする。セリフは非常に口語的である。

 デズデモーナとイアゴーが伊東沙保による1人2役で、イアゴーも女性という設定である。冒頭で真っ暗になったままセリフだけ聞こえるところがあるのだが、イアゴーが自分が女だから副官になれないのではないか…という疑念を口にしており、性差別を受けた女性が人種差別で復讐しようとするというおそろしく救いのない展開になっている。通常は『オセロー』に存在する真相が明らかになるオチも無いので、最初がくだけたユーモラスなロマコメ風だったのに、最後はまあとにかく暗くなる。全体的にナショナル・シアター・ライブの『オセロー』みたいにジェンダー差別に焦点をあてているプロダクションで、男性による女性抑圧がこれでもかと描かれている…のだが、このため原作の男性ばかりの空間で男らしさをめぐる嫉妬が行き詰まって…みたいなところはなくなっている。

 大変野心的なプロダクションだし面白かったのだが、細かいところでとても気になったところがあった。イアゴーが女性設定なのに、途中でエミリア(中川友香)がイアゴーのことを「旦那」と言うので、少なくとも私はかなり混乱した。ジェンダーをいじるならそういうセリフも変えないといけないと思うのだが…