あの『椿姫』、途中抜けてる?~『カツベン!』

 『カツベン!』を見てきた。

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 主人公は活動弁士に憧れている俊太郎(成田凌)である。しかしながら、弁士になったのはいいものの、泥棒の片棒を担がせられることになり、辟易している。ひょんなことから一味の手を逃れた俊太郎は、映画館である青木館で働き始め、活動弁士として人気を集めるようになるが…

 

 映画愛が伝わってくるような作品で、そこは楽しく見られる。自前できちんとサイレント映画を撮って(パブリックドメインサイレント映画を持ってくるとかいうことはせず、自分で作っている)それに弁士をつけるという活動写真上映の場面などはなかなか本格的で面白い。役者陣の演技も、最初の子役のところはちょっとわざとらしいような気がしたのだが、大人になってからはみんなハマっている。

 

  ただ、脚本はちょっと詰め込みすぎというか、そもそも最初の泥棒一味の話は要るのかな…と思った。映画館同士がもめていてそれに恋模様が絡むだけでも十分映画になると思うのだが、泥棒の話まで入ってくるのでちょっとバタバタしている。また、女性キャラクターの描き方は定型的だ。人気弁士の茂木(高良健吾)が梅子(黒島結菜)に性暴力を振るおうとするあたりをはじめ、梅子周りの性的強要の描き方がかなりいい加減に流されてしまっている。また、琴江(井上真央)の描き方にかなりミソジニーがあり、着物姿の梅子がいい子、モガっぽくて映画館経営をやっている琴江が俊太郎に横恋慕して梅子をいじめるイヤな女、というのはずいぶんステレオタイプな描き分けだなと思った。

 

 なお、途中で上映している『椿姫』のサイレント映画は、どうも活弁なしだと話がつながっていないように見えるので、たぶんフィルムが抜けてる設定なのかな…と思った(映画の中でも飛ばして上映とかやっていたが)。この映画、ヒロインが『マノン・レスコー』の本をもらってすぐ死亡するのだが、ふつう『椿姫』の話ってヒロイン(小説準拠だとマルグリット、オペラ準拠だとヴィオレッタで、展開もちょっと違う)が本をもらった後にアルマンの将来を考えて身を引いて、そのまま亡くなるか、死にそうなところにアルマンが駆けつけてくるという展開だと思う。本をもらってすぐ死亡というのは盛り上がらないだろうと思うのだが、そこは弁士の力で盛り上げていた。

All That Yummy Cabaret-O-Rama ~Happy New Year Boylesque special~

 銀幕ロックで「All That Yummy Cabaret-O-Rama ~Happy New Year Boylesque special~」を見てきた。ボーイレスクイベントで、出演は裸猿、ダニエルジュゲム、馬A車道だった。新年の通販スペシャル風な裸猿、着物でお面を使ったちょっとロマンティックなダニエルジュゲム、キラキラの衣装で華やかな馬A車道、それぞれ個性があって面白かった。とくに馬A車道のショーを一度生で見たいと思っていたので、新年に見られて良かった。

 

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カーテンコール。

 

最後の文字は日本語にすべきでは?~『ウエスト・サイド・ストーリー』Season 1

 IHIステージアラウンド東京で『ウエスト・サイド・ストーリー』を見てきた。マリア役が北乃きい、トニー役が蒼井翔太アニタ役が樋口麻美、リフ役が上山竜治、ベルナルド役が水田航生の回だった。

 わりと狭いセットを使った場面から始まるので、最初はちょっとセットの奥行きや幅の生かし方が足りないように思った…のだが、ドクの薬局の作り込んだ感じとか、体育館の奥行きを使ったダンスなどはなかなか空間の使い方が上手で、メリハリを考えたセットにしているのだなと思った。この劇場特有の回転をうまく使って移動や時間経過、夢と現実の移り変わりなどを示しているのは良い。

 演出は民族対立や宗派対立、暴力を強く批判するタイムリーなものだ。キャストは日本人チームなのだがブラックフェイスなどはもちろん使っておらず、それでもきちんと対立や差異がわかるように演出している。ただ、最後に世界各地のテロや大量殺人事件などの日付と地名がプロジェクションで表示されるという演出があるのだが、あれは日本語に訳したほうがいいのではと思う。全部アルファベットだと日本語のお客さんにはやや見づらく、たぶんわからない観客もいたかもしれないと思う。

 ちょっと気になったのは歌のクオリティがまちまちなところだ。とくに北乃きいのマリアは、台詞や表情は悪くないのに歌がかなり不調だった。トニーと結婚式ごっこをするところなど、子供っぽい遊びで夢を見るしかない2人の切ない気持ちがよく表れていてなかなか良かったのだが(全体的にこのプロダクションのトニーとマリアはすごく若く、むしろ子供っぽくて無垢な印象だ)、歌い出すと突然堅くなってしまうのがあまり良くなかった。

1/11に奈良女で女性史学賞の講演をします

 1/11に奈良女子大学で女性史学賞の授賞式があり、そこで講演をします。内容は『シェイクスピアを楽しんだ女性たち』とだいたいかぶる感じのものです。講演の場所や時間などの予定はこちらで見られます。

シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち:近世の観劇と読書

新年の決意

 新年になりましたが、決意は毎年同じ、「とにかく仕事をしない」です。座右の銘は「お断りします」「できません」「無理です」ということにしたいと思っています。

 2019年はそんなに売れると思っていなかった新刊『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』が意外に売れたせいで急に多忙になり、あまり論文を書けませんでした。とりあえず査読を通った英語の論文と日本語の論文が1本ずつあるのと、雑誌の発行が遅れている英語の劇評が3本、刊行待ちです。既に刊行されたものとしては、4月と9月に『ユリイカ』にスパイク・リー論とクエンティン・タランティーノ論を書きました。他にすごくいろいろ短い文章を書いたのですが、業績まとめは3月の年度末にやろうと思っています。

 2019年に一番大きい出来事だったのは、TBSラジオの『アフター6ジャンクション』に出たことです。愛聴していた番組で、『ウィークエンド・シャッフル』の時にはロンドンからメールで投稿もしてたので、出られてとても嬉しかったです。スノーボーダーが初めてXゲームズに出るとか、そのくらいは自分の中で大きいイベントでした。あと、単著『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち:近世の観劇と読書』が研究関係の賞を2つももらったのも大変嬉しかったです。

 

2019年舞台ベスト10

 2019年に見た舞台上演ベスト10を書いておきます。2019年に見た芝居は106本(数え方によるけど)、ベスト10のうち2本が映画館で芝居を上映するスタイルのやつで、4本は海外で見たものです。

  1. DULL-COLORED POP『マクベス
  2. カクシンハン『薔薇戦争
  3. ブラックフライアーズ劇場『アントニーとクレオパトラ
  4. METライブビューイング『カルメル会修道女の対話
  5. ブス会『エーデルワイス
  6. 東京芸術劇場プラトーノフ
  7. ブラックフライアーズ劇場『シーザーとクレオパトラ
  8. アーツ劇場『Six
  9. ハミルトン』(ロンドン版)
  10. NTライヴ『アントニーとクレオパトラ』