グローブ座『アン・ブーリン』

 グローブ座で『アン・ブーリン』を見てきた。シェイクスピアの『ヘンリー八世』をネタに、アン・ブーリンの人生を描くもの。ハワード・ブレントン作で、去年グローブで上演されて好評だったらしい。


 それで、この戯曲はなんか話が直線的になっておらず、即位したばかりのジェームズ一世(バッキンガムと熱愛中)が英国国教会創立の原因となったアン・ブーリンについて知ろうとする…という枠があって、フラッシュバックのようにアンの生涯が語られるという形になっている。わりと野心的な形式だと思うし、ちょっと複雑(隣の人たちは混乱したみたいで休み時間に歴史を確認してた)なのだが、斬新ではある。とりあえず重点的に語られるのはヘンリーがアンに求婚するところからアンが逮捕されるまでで、死ぬところはまあほのめかされる程度。

 この戯曲のテーマはなんというか英国国教会の設立で、神学に興味のあるアンは最初ウィリアム・ティンダルのシンパでプロテスタントの保護のため王妃の座を狙ったということになっている。シェイクスピアの『ヘンリー八世』にもアンとウルジーを軸にしたプロテスタントカトリックの権力闘争はちらりと触れられているので、そこに着目して話をふくらませたのは歴史ものとしては非常に良いと思う。とくにヘンリー八世の私生活なんか普通に描くとただの色と欲のソープオペラになりそうなので、宗教改革を絡めたのは非常に正解な気がする。

 で、アンは英国国教会の設立の立役者の一人であり、イングランド教皇の権力から独立するのに大きな力があった…ということになっているのだが、このへん歴史劇としては非常に面白いと思った一方、うちは英国国教会にさっぱり思い入れがないので結構ほほーっという程度で終わってしまうところもあったかな…アングリカンの信徒だったらもっとすごく面白く見られるのかもしれないと思った。


 役者の演技はおおむね良かったと思う。とくにジェームズ一世役のジェームズ・ガーノンはこの間の『終わりよければすべてよし』にも出てたが、すごくパワフルで、敬虔な学識者である一方わがままでコミカルなとこもある変わり者の王様をよく表現してたと思う。ただちょっとびっくりしたのは、この上演ではジェームズ一世はチックがあるということになっているのだが、うちが見た回では中庭の近くの席にチックのお客さんがいて、ジェームズ一世のチック発作の演技にどうやら発作が誘発されたようでなんかそのチックのお客さんがえらい辛そうだった。お客さんがジェームズ一世と一緒に叫び始めた時はちょっと驚いたな。