ニュー・ウィンブルドン座『キューティ・ブロンド:ミュージカル』(Legally Blonde: The Musical)〜コロスを導入するなど舞台的な工夫多数、とても楽しかった

 ニュー・ウィンブルドン座で『キューティ・ブロンド:ミュージカル』(Legally Blonde: The Musical)を見てきた。ぼやっとしてるうちにサヴォイ座でやってたウェストエンド公演を見逃してしまったのでツアーで鑑賞…なのだが、ニュー・ウィンブルドン座って一応グレーターロンドンのにツアーで回るのか。


 話は映画版キューティ・ブロンドと同じなので安心して見られた。歌も踊りもとにかく女子が楽しくて元気が出るようなものを作る、というそれ一点に集中して製作しているようで、女性の自己実現をテーマにしたポジティヴなストーリーはもちろん、着るものの色遣いからキャンプでガーリーなダンスや歌までとりあえず愉快である。とくに私は『キューティ・ブロンド』映画版を熱愛していて2000年代で一番優れた映画だと思っているくらい入れあげているので、見ていると私の中の批判精神がグニャグニャになってしまってしまう。

 いくつか舞台らしくするための変更点があり、エルがエッセイのかわりにビデオをハーヴァードの事務局に送る場面は実際にエルがデルタ・ヌーの女子たちと事務局に乗り込んでいってチアリーディングのダンスをするという舞台的な演出になっていた。あとエルがハーヴァードに行ってからもデルタ・ヌーの女子たちがエルの脳内コロスとして舞台に出てくることになっていて(エルがふられたところで「悲劇にはギリシャ式のコロスが必要だもん!」とか言って出てくる)、これは舞台の演出としては非常に効果的であると思ったのだが、ちょっと『誘惑のアフロディーテ』とかの影響があるんだろうか。あと法廷でのダンスなどはブロンドとブルネットの美女が歌って踊って…ということで、私の大好きな『紳士は金髪がお好き』を思わせるどぎつい女子女子しさで良かった。ただ判事も弁護士も女性なのは「『紳士は金髪がお好き』の時代より進歩したなぁ」っていう感じ。

 しかし、全体的にアメリカ人のヨーロッパというものに対する偏見と憧れがすごい強く出ているのはちょっと驚いた。ポーレットの夢の彼氏がどういうわけだかアイルランド人ということになっており、ニセリバーダンスなども登場。この唐突なアイルランドネタは『ナビィの恋』みたいだった…のだが、アイルランド人がたくさん住んでるUKでああいうネタって通じるんだろうか?どうもロンドン公演の前に歌詞を変えたみたいなんだけど。あと法廷でエルがウソをついてる証人をゲイだとアウティングする場面の歌が「ゲイかヨーロッパ人か?」(Gay or European?)という歌になっており、「立ち居振る舞いがゲイっぽい」「いや、あれはヨーロッパ人だからだろ」という掛け合いを延々続けるということになっていて、おかしいことはおかしいのだがこれヨーロッパのゲイコミュニティはいったいどう受けとるんだ…と若干疑問に思ったら、なんとご本人ゲイのグレアム・ノートンの番組で言及されてたので、どうもイギリス人はこういうのでアメリカ人の服装センスのなさとかをからかうのが好きみたいだ…


 会場は地元のおばちゃまから若い子まで各年齢層の女子ばかりで、男性が非常に少なく、ウェストエンドやいつも私が行ってるようなオフウェストエンドのアートな箱とは結構客層が違う。元ポップ・アイドル入賞者のギャレス・ゲイツがエルの元カレ役で出て来た時には大拍手。うち、ゲイツは歌はそりゃ歌えると思うし吃音症を克服して関係チャリティを熱心にやってるあたりもすごいなと思うんだけど模範的すぎてあまりセクシーと思わないのだが、このウォーナー役はそういう「模範的すぎてあまりセクシーと思えない」タイプのほうがいいのかもしれないとは思った。しかし、客席からイギリスのおばちゃま方の乙女パワーがひしひしと感じられ、なんかすごい安心してくつろぎながら鑑賞できたのは良かった。