人のこころについてビッグピクチャーを描いてみよう〜ラマチャンドラン『脳のなかの天使』

 V・S・ラマチャンドラン『脳のなかの天使』山下篤子訳(角川書店、2013)を読んだ。

脳のなかの天使
脳のなかの天使
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V・S・ラマチャンドラン
角川書店(角川グループパブリッシング)
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 共感覚者にはおなじみのラマチャンドラン先生の本で、過去二冊の一般書『脳のなかの幽霊』と『脳のなかの幽霊、ふたたび』でやった症例研究をさらに発展させ、人間のこころ一般(とくに芸術や美の感覚)と脳科学を結びつけようという試みである。共感覚についても一生が割かれており、前回二冊の本とBBCの番組で解説していた共感覚とメタファーのつながりについてもう少し詳しい話をしている(基本的には前の本と同じ路線だと思うが)。提示されているものはほとんど仮説段階(結構過激な仮説もある)のもので確定していないことも多いし、かなり大きいテーマを扱っているので若干とっちらかっている感じもするのだが、過度に専門化して素人にはわかりにくくなった脳科学を大きく見て、いろいろな研究成果を取り入れつつ実験的なものでもいいから人のこころに関するbig pictureを描いてみようとする試みとしては大変面白いと思う。

 あと、キーツ的な科学観、つまり「科学は芸術をつまらなくする」という考えを持っている芸術愛好家の人は是非この本を読んでほしいと思う。ラマチャンドランは自分が育ったインドのヒンドゥー教の宗教美術とか若干スピリチュアルな芸術にも関心がある人で、シヴァ神のダンスを描いた彫刻に表現された科学観を熱く語るくだりとかを読むと、本当にこの人は科学と芸術の関わりを本気で考えているのだということがよくわかる(pp. 335-338)。一方でキッチュと美の区分についての議論とかは、芸術をやってる人間からするとかなり弱いのではと思えるところもある(pp. 277)。このへんは脳科学じゃなく芸術をやってる人からもいろいろ意見があるところだと思う。