ゴブレイプロジェクト『赤いきつねとみどりのハムレット』〜学芸会とヴィクトリアンバーレスクのはざまで

 池袋演劇祭の審査でゴブレイプロジェクト『赤いきつねとみどりのハムレット』を見てきた。なんかアイドル舞台とかいうものだそうで、普段はアイドルとかをやっている若い女性がオールフィメールでハムレットの翻案をやるというもの。観客はほとんど男で女性は三人くらいしかいなかったのだが私は最前列で非常にきつかった。しかもしょっぱなからアイドル歌謡を踊りつきで披露するのがあってびっくり。

 一応話は『ハムレット』の日本版翻案で、江戸時代くらいを舞台に主人公はむえもんの復讐を描くというもの。上演時間二時間などでかなり切り詰めてあり、開演35分で「生きるべきか死ぬべきか」独白まで行くという早さで、さらに独白のあとにハムレットが「復讐する」と決意するとか、原作の哲学的逡巡を完全に無視した展開になっている。しかしたぶん上演時間が短いのはローティーンが出てるからというのもありそうで、ローティーンのアイドルは9時以降は出ません、というアナウンスもあった。ドタバタのあまり面白くないギャグとかが入っているわりに一応ストーリーはちゃんと『ハムレット』なのだが、タイトル通りハムレットはキツネに憑かれたというオチになっており、なんかもうそれをやると亡霊の言うことに従うべきか悩むハムレットの実存的問いとかどうでもよくなって単にキツネに騙されただけじゃんという…うまくやれば『ハムレット』の権威をからかう面白いパロディになりそうだと思うのだが、全然うまくいってないので白けるだけだった。あと場面の切れ目になぜかハードロックが流れてそれがあまり本筋には関係ないのだがそれも謎だった(ただし演出家の音楽の好みがかなりうちに似てる)。

 演技ができる女優さんもいるのだが、だいたいは学芸会みたいな感じで、とくにローティーンの女優さんはいらないだろうと思った。しかし学芸会のわりには露出度が高いというかひらひらしてたり足の線が出るような恰好が多いので、学芸会というよりはリディア・トンプソンなんかがやったようなヴィクトリアン・バーレスク(古典のはちゃめちゃパロディを当時としては露出度高い女性パフォーマーたちがやるというもの)に近いのかもしれない…が、トンプソンの一座なんかは政治諷刺とかが入っていてもっと過激だったはずだし、歌にも踊りにも自信のあるショーガールが主体的に作っていたはずなのでもうちょっと技術的に面白かったはずだよなぁ…と思ってしまった。バーレスクとこういう芝居はどっちも露出度高い女性がいっぱい出てくるという点で一見共通しているようだが、現代の(たぶんトンプソンの頃もそういうとこあったと思うが)バーレスクパフォーマーのほうがはるかに男性に媚びてないし踊りの技術やコンセプトの点でもたいていしっかりしている。しかし、よく王政復古期の舞台とかについて女性の色気を引き出すために足の線が出る男装をさせたっていう話が出てくるんだけど、こういう舞台を見るとたしかに男の服装のほうが足の線が見えたりするのでなるほどなと思う。

 思ったよりはちゃんとハムレットだったのでそこまでものすごくひどいというわけではなかったのだが、まあでもこういう男性ファンしか対象にしてない演目は私のような客にとってはつまらないという他ないし、なんで演劇祭に入ってるのかも疑問。だいたいウェブサイトインターフェイスが初めて来た人にはとんでもなくわかりにくくてひどいし、私は審査員なんで早めに予約しないといけなかったんだけど何回メールしても返事来なくて電話もつながらないし、ファン以外の人に芝居を見せる気はないのだろうと思う。そんならそれでもいいのだが、演劇祭にエントリーするからにはせめてチケット事務とかウェブサイトくらいはもうちょっとまともにしてほしい。

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