妖精の魔法か、人工知能の科学技術か〜『SAFARING THE NIGHT サファリング・ザ・ナイト 』(ネタバレあり)

 舞台芸術集団地下空港による『SAFARING THE NIGHT サファリング・ザ・ナイト』を見てきた。台本と演出は伊藤靖朗が担当している。これだけだとわかりづらいが、『夏の夜の夢』の翻案である。

 規模の大きい観客参加型の演劇で、舞台は2045年バーチャル空間内である。観客はタイタニアゲートとオベロンゲートに割り振られて入場するのだが、タイタニアとオベロンはどちらも人工知能の名称で、それぞれ国家連合を管理しているという設定である。この2つの陣営は戦争状態にあるのだが、このたびタイタニアのトップ、ヒポリタとオベロンのトップ、シシアスが和平を締結し、タイタニアとオベロンは統合アップデートをすることになった。観客はそれぞれ入場ゲートにあわせてタイタニアかオベロンの市民となり、統合記念式典の出席資格を取得するための評価プログラムを受けることになる。お客は事前にアプリをダウンロードし、当日はすみだパークに設営されたオベロンとタイタニアの施設内(仮想空間という設定)を歩きながらスマートフォンQRコードを読んだり、ガイドの説明を聞いたりしつつ、この評価プログラムを受ける。ところが途中でトラブルが発生し、お客たちはライサンダーとハーミア、ディミートリアスとヘレナという二組の恋人たちの問題を目撃することに…

 久しぶりに歩き回る参加型演劇を見たのだが、やはりこういう身体を動かす演劇は飽きないし楽しい。アプリの使用とかもけっこううまくやっていると思うのだが、最後に投票をさせるところの展開はちょっと安易では…という気もした(お客に投票させる演劇という点ではリミニ・プロトコルのBest Beforeを思い出したのだが、あっちのほうが予定調和にならないスリルがあった気もする)。結末はハーミアが最強の人工知能になってしまうというもので、なんかちょっと『ルーシー』っぽい。

 人工知能の描き方についてはちょっと安易な気もする。ディストピアSFで見たことがあるような展開が多いし、オベロンが社会主義国タイタニアが資本主義国というのも東西冷戦モデルでちょっと古いかもしれない。『夏の夜の夢』の翻案として面白いのは妖精の魔法が人工知能の技術力に変更されているところで、これはちょっと『禁断の惑星』でエーリアルがロボットのロビーに変更されたことを思い出し、魔法と科学技術の見た目の共通性に思いを馳せてしまった。一方で原作にある家父長制による抑圧はコンピュータによる管理に読み替えられており、これはこれで大変現代に即した翻案の方向性と言えるかもしれない。