荒ぶる乙女〜女体シェイクスピア『暴走ジュリエット』

 柿喰う客の女体シェイクスピア005『暴走ジュリエット』を見てきた。女体シェイクスピアシリーズなのでオールフィメールのキャスティングである。

 ステージは後ろにアーチ状の背景(同時上演の『迷走クレオパトラ』ではアーチが上下逆向きに設置されていた)があり、中央に丸型の壇が設置されている程度で、舞台装置はかなりシンプルである。衣装もだいたい現代風で、音楽は電子的な感じ。

 話は原作の『ロミオとジュリエット』に忠実なのだが、とにかくカットして展開を早くしてある。『ロミオとジュリエット』をカットしないでやると2時間半〜3時間近くかかるはずなのだが、このプロダクションは80分程度だ。とはいえ、もともと『ロミオとジュリエット』は迅速に展開する緊張感ある話なので、80分でやってもきちんと話は通っている。コミカルな味付けが多いというのもプロダクションの特徴なのだが、もともと『ロミオとジュリエット』は恋愛喜劇としてオチがついてもおかしくないような話を怒濤の展開で悲劇にしたものなので、笑いが多いところも原作の雰囲気をよく生かしていた気がする。

 タイトルロールの暴走娘ことジュリエット(佃井皆美)は大変生き生きして強い性格で、これもかなり原作どおりの演出だと思った。ジュリエットは原作でも若いのに非常にしっかりしていて、自分からロミオに結婚を申し込んだり、性格がはっきりして強い女性である。そういうわけなので、たまに暴言も吐いたりする現代娘のジュリエットはとても良かった。一方でロミオ(瀬戸さおり)は非常に優男ふうに作っており、地に足がついておらず恋に舞い上がっている様子がよく出ていたと思う。これをロレンス神父や乳母(ジュリエットにパリスとの結婚をすすめる場面の悲壮な覚悟が良い)などまわりの大人たちが支えるような演出になっており、若々しい二人の悲劇が際立っていて最後まで面白く見ることができた。

 ただ、二点疑問があった。まずは食物の使い方で、乳母が突然料理番組をはじめたところにロミオが出てきてその包丁を奪い、ティボルトを殺して最後までそれを携帯するとか、またまたロミオがマントヴァで作ったカップ麺を最後までベンヴォーリオが持っているとか、いろいろなところに食べ物が出てくるのだが、この簡単食べ物がやたらに出てくる演出はちょっと家庭的すぎるのでは…という気がした。ただ全体の演出にスピード感があるのでこの点についてはそこまで気になったわけではない。もっと疑問だったのはジュリエットの衣服で、膝上丈のセーラー服は良くなかったと思う。オールフィメールでやるのに、わざと記号的に女の性を際立たせるような服を選ぶのはあまりにも芸がないと思ったし、またまた女優さんの膝が見えるのは今回に関してはあまりよくなかったんじゃないだろうか(膝は十代女性とそれ以上でかなり見た目が変わるので)。もうちょっとこの演目にあうような衣装の選択がある気がした。