実在のスウェーデンのジャズ歌手、モニカ・ゼタールンドの半生を描いた伝記映画『ストックホルムでワルツを』を見た。主に50-60年代、貧しいシングルマザーからスターになり、その後危機を経て復活するまでを描いた作品である。音楽はもちろんファッションや美術なども当時の雰囲気をよく再現していてオシャレだし、見た目にも楽しい映画だ。
この映画の面白さは、ヒロインのモニカが第一にアーティストであるというところにある。モニカの強さも弱さも、全てジャズシンガーとしての芸との関わりによって出てくるものだ。モニカは才能溢れる美しい女性だが精神不安定で、自信満々かと思えば急に心細いことを言ったり、酒で疲れを隠して働いて過労で倒れたり、トラブル満載の人生を送る。しかしながら最後、モニカは「ビル・エヴァンスの伴奏で歌いたい」という芸への強い情熱によって復活する。復活したせいで昔惚れてたミュージシャンのストゥーレが結局戻ってくるという結末になるのだが、注目すべきなのはこの復活が完全に芸への想いゆえであって、男のおかげとかではないということである。モニカはいろんな男をとっかえひっかえして、最後は自分の芸を理解してくれるいい男とくっつき、長年争っていた父からも認められる。しかしながら逆説的なことに、モニカと男どもとの関係が劇的に改善した原因は、復活と成長によって男がいなくてもひとりで立てるような女になったからである。女ひとり、ひたすら芸の道に生きることで強くなるという点では『大統領の料理人』に似ているかもしれない。
しかしながらこのモニカは相当に性格が悪い女で、あまり美化されずにそのあたりがかなりリアリティを持って描かれているあたりも良かった。モニカは大変ビッチィ(日本語で誤用されてる意味じゃなく本来の「性格悪い」っていう意味)な女で、良さそうな男(それがヴィルゴット・シェーマンなのだが)がいたらすぐ誘惑して転がり込んだりしてしまう一方、他の男にもやたらに気を持たせたり、相当な困ったちゃんだ。しかしながら性格の悪さが発揮される相手が基本的に男ばかりなので、直接男でモメた相手以外の女とは比較的関係良好で、さばさばした女友達のマリカは病気のモニカの面倒を見てやったりする。実はこの手の女はけっこういるので(男とは四六時中モメてるが友誼に厚いので女友達はたくさんいるタイプ)、そういうタイプを美化せず等身大のキャラクターとして描いているあたりも良かったと思う。女の性格の悪さを描くことにかけてはとかく型にはまりがちな凡百の映画とは違う。