ルパート・エヴェレットとエミリー・ワトソンが国王夫妻を演じる『ローマの休日』〜『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』

 『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』を見てきた。

 第二次世界大戦終結した夜、エリザベス王女(現在のエリザベス二世)と妹のマーガレット王女がお忍びで外出したという実話をもとに大きく脚色を施した作品である。ただ、設定を実話から頂いただけで、エリザベス王女と空軍兵ジャックとのロマンスやら、マーガレット王女が娼館で大騒ぎするエピソードなんかはフィクションだそうである。『ローマの休日』にそっくりな展開だが、こちらの実話のほうが『ローマの休日』より古いので、まあ堂々とおしのびで出歩く王女様のお話を作れるわけである。

 ふつうのロマンスものでとくにすごく出来が良いとか面白いというわけではないと思う。迷惑がっているジャックが結局エリザベスを助け続けることになってしまうあたりの展開はやや強引だし(ジャックは上流階級の令嬢が好きじゃないみたいなので、いくらエリザベスが可愛いからってあそこまでは…と思っちゃう)、「国民のことを学ぶために」みたいな責任感でエリザベスが出かけて外のことを学びました…みたいな展開もちょっと安易である。あと、個人的にこういうプリンセスの恋愛やら、将来王となるべき者の責任やらなんやらをロマンティックに描いたお話はあんまり好きというわけでもないので、ちょっと点が厳しくなってしまうのかもしれない。

 しかしながら役者陣がけっこう頑張っているので見ていて飽きないものになっている。しっかり者のエリザベス王女を演じたサラ・ガドンはチャーミングだし、対照的でとにかくぶっ飛んだマーガレット王女を演じるベル・パウリーはけっこう強烈だ。とくにマーガレット王女が手押し車で寝ちゃうあたりの描写はかなり笑える。この2人の姉妹愛は丁寧に描かれており、冒頭で2人が話すところでベクデル・テストはパスする。個人的にはジョージ六世役のルパート・エヴェレットと、妻であるエリザベス王妃役のエミリー・ワトソンがけっこう良かった。『英国王のスピーチ』に比べるとずいぶん美化されていない国王夫妻で、気弱だが責任感があり、娘には甘いところもある国王と、夫より何倍も肝が据わっているのであろう厳しいエリザベス妃の組み合わせである。ベテラン2人なので見ていてなんとなく安心感があり、若者中心のロマンスものの中で良い隠し味になっていると思う。

 ただ、ひとつ言っておくと日本語字幕はかなり問題ある。エリザベス王女とマーガレット王女が"Your Highness"などと呼ばれている箇所がほぼ「妃殿下」になっている。生まれつきプリンセスの身分を持っている、未婚のイギリスの女性王族に「妃殿下」はマズいし、字幕は短いほうが読みやすいので素直に「殿下」とかいいはずである。王子との結婚によってプリンセスになった人の場合、訳語は「王子妃」で「王女」ではダメなのだが、生まれつきプリンセスである未婚女性は「妃」と訳してはならない。なんでこんな変な字幕になったのか、何か校正のミスなのか、謎である。

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