ストラトフォード(3)現代を諷刺する〜『アテネのタイモン』

 ストラトフォード・フェスティバルでスティーヴン・ウィメット演出『アテネのタイモン』を見た。全体的に大変面白かったと思う。テクストを読むとさっぱり面白くないのだが、この芝居は上演を見るたびに興味が湧く。

 真ん中に長方形の舞台があり、四方に客席があるトム・パターソン劇場で上演され、現代のソファなどが置かれたシンプルでモダンなセットである。後半はこれが撤去され、奈落に岩などが配置されて人嫌いになったタイモンのすみかになる。シャープな照明でアクションを強調している。

 前にロンドンのナショナル・シアターで見た時もそう思ったが、この芝居は諷刺劇なので舞台を現代にしたほうが断然うまくいく。タイモン(ジョゼフ・ジーグラー)は金持ちだが、おそらく遺産をもらっている有閑階級で、今まで働いたことがなく世間を知らずに年をとっていった感じのおじいさんだ。アルシバイアディーズは(ナショナルの上演ではモブの名目上のトップみたいな感じだったが)このプロダクションでは完全に軍人で、後半でタイモンに金を渡される娼婦たちも軍服を着ている。ほとんど男の世界で、タイモンが金を借りに行く相手はウォールストリートの金持ちみたいに美女をはべらせているし、ホモソーシャルミソジニーに充ち満ちた世界が舞台である。翌日、学会であったトークセッションでも言及されていたのだが、おそらくこの上演においては均質な男ばかりの世界であることが社会全体の腐敗につながっている。しかもこの男の世界は実に冷たくシビアな世界で、金の切れ目がホモソーシャルの切れ目であり、思いやりとか絆などが入り込む隙はない。

 後半はタイモンがどんどんリア王みたいになって荒野で荒れ狂う。いろいろな人が尋ねてくるのだが、わざわざ尋ねてくるアペマンタスがテクストよりはかなり優しい人という印象だ。召使いのフレイヴィアスもタイモンに忠実なのだが、タイモンはこういう連中の優しさにも動かされず、社会には復帰できない。前半は辛辣な諷刺だが、後半はかなり悲劇的だと思った。