ティティプーの街で地元仕様のサヴォイ・オペラ〜ちちぶオペラ『ミカド』

 秩父宮記念市民会館開館記念公演ちちぶオペラ『ミカド』を見てきた。『ミカド』の舞台はティティプーという街なのだが、これは秩父ではないかとも言われており、このため秩父ではもう既に何度も『ミカド』を上演している。イギリスのギルバート・アンド・サリヴァン祭にまで持って行ったこともあるくらいだ。

 市民ホールの外にはすごい列ができており、そこで職員らしい人が、ゆるキャラグランプリで地元のゆるキャラであるポテくまくんに投票してくださいとお願いしているせいでゆるキャラのイベントの勘違いする人が続出していた。ホールは満員で、おそらくほとんど普段オペラなど見ない人も多く、お隣のおばあさんにiPhoneの電源をどうやって消せばいいのか聞かれた。開館記念ということでまず市長の挨拶があるのだが、ここで市長がティティプーと秩父の話についてウィキペディアを引用していたのはウィキペディアンとしてどうかと思った。

 上演については完全に秩父の地元仕様で、日本語に訳された歌詞やジョークにも地元の地名なんかがポンポン出てくる。最初に秩父夜祭りのプロローグのような場面がついており、ここでヤムヤムとナンキ・プーが出会ったことが示唆されるし、プーバー秩父声楽家協会会長をつとめている。ヤムヤムは学習院大学ではなく、秩高出身だ。

 衣装は和風なのだが、時代設定などはメチャクチャで、男性の大多数は侍風だが身分の高いプーバーはお公家さんふうだ。ミカドの衣装は派手なものでちょっと中国っぽい。女性陣は着物を着ているが、ダンサー陣はもうちょっと動きやすい衣装だ。

 前半はちょっとたるいところもある。たとえば秩父夜祭りのプロローグの後、序曲で出演者クレジットが映像で出るのだが、これは興ざめなのでちょっとどうかと思った(夜祭りの前にやるならともかく、夜祭りの後でやるとかなり寒い)。ココの処刑対象者リストの歌はもうちょっと政治諷刺を入れたほうがいいと思う(今まで見た海外のプロダクションでは首相や大統領をけっこう入れてたので、ここはドナルド・トランプ安部晋三を入れるとこだと思う)。

 一方「総理のご意向」を皮肉る冗談とか、ミカドが堂々と登場した…はずなのに未来の皇太子妃を自負するカティシャに邪魔されるところなどはとても笑えた。カティシャはブサイクな女ではなく妙な色気のある中年女性に作ってあってこれはいいと思ったのだが、そのわりにちょっと声量が少なく、声質も上品な感じなのがあまりよくないかもと思った。あと、カティシャ登場の場面での踊りは歌の迫力を邪魔するのでいらないと思う。

 全体的には笑うところもあり、音楽も楽しく聴けるいいプロダクションだったと思う。また、地元民に向け、明確にターゲット層を定めて作っているところがいいと思った。ローカル色たっぷりの演出なのだが作っている人たちはプロなので、学芸会っぽくなったり、妙に気取ったりすることもなく、肩の凝らないよくできた楽しい作品としてバランスがとれている。

 なお、今週末にはびわ湖ホールから新国立に別演出の『ミカド』がやってきた。関東で一週間に二度も別の『ミカド』を見られるなんて…謎の夏だ。