とにかく面白い、少年2人の大暴走〜シアタートラム『チック』(ネタバレあり)

 世田谷のシアタートラムで『チック』を見てきた。ドイツの児童文学『14歳、ぼくらの疾走:チックとマイク』を舞台化したもので、映画『50年後のボクたちは』と同じ原作に基づいている。すすめられなければ行かなかったと思ったのだが、大変良かった。

 主人公はベルリンに住む14歳の少年、マイクとチックだ。アルコール依存症の母とネグレクトをしている父という最悪の家庭で育ち、学校でも人気のないマイク(篠山輝信)は、ひょんなことからロシアからの移民で問題児であるチック(柄本時生)に誘われ、盗んだ車で旅に出る。旅先でいろいろな人と出会い、いくつかのアクシデントにあうが…

 とにかく空間の使い方が非常に良かった。舞台は真ん中に傾斜のついた台を置き、その後ろにスクリーンを下げ、台のまわりにはいろいろな道具類を配置するというもので、けっこういろんな家具などが使われる。左側はキッチンで、これはマイクの家の台所になったり、旅先のパン屋になったりする。右側はテレビなど、後方は鉢植えの花とかスーパーの看板とか雑多な道具類が置かれている。舞台だけではなく客席の最前列真ん中の席も舞台の一部として使用され、旅の往路はマイクとチックがハンドルを持ってこの席に座り、ふたりの表情はカメラで撮影されてスクリーンに映るようになっている。こうするとまるで観客が全員、マイクとチックと一緒に車に乗っているような構図になるので、場内の親密感を高めるのに非常に効果がある。ラジコンで操作する車を台の上で走らせることで旅の行程を示し、たまにミニチュアのセットに車が入ったりもする。復路になるとマイクとチックは舞台上の台の上に上がって運転するようになり、ちょっと雰囲気が変わる。

 主演の2人は自分たちの半分くらいの年齢の子どもを演じているのだが、全く違和感なく、とても生き生きしていたと思う。とくに柄本時生のチックは舞台に出てきただけでなんだかヌボーっとした存在感があり、タダ者ではなさそうに見えるところが良い。脇役の3人(土井ケイト、あめくみちこ、大鷹明良)はとっかえひっかえいろんな役をやっており、こちらもそつなくこなしていた。

 お話のほうは虐待やいじめ、性的指向など、ティーンの子どもが直面するいろんな問題を詰め込んであり、終わり方もけっこうシビアなのだが、一方で後味は全然悪くなく、むしろ明るい感じがする。マイクもチックも旅先ではたくさんの親切な大人に会うのに、家庭では全く大人に頼れないつらい人生を生きている(とくにマイクの父親がすごく虐待的だ)。それでも旅の経験を胸に生きようとするところがポジティヴで、希望のある終わり方になっていると思った。

 欲を言うと終盤はもうちょっと台本を短くしてもいいのではと思ったのと、一、二箇所台詞の翻訳に違和感があったのだが(「メディシンボールみたいなカボチャ」っていう台詞があったのだが、私はメディシンボールが何だか知らなくて大きさが想像できなかったのでこの台詞は何か工夫したほうがいいと思った)、全体としては演出も演技も話もすごく面白く、大変満足できる舞台だった。まだチケットあるみたいなので、非常におすすめだ。