ピーターはある夜突然に〜『スパイダーマン:ホームカミング』(ネタバレあり)

 『スパイダーマン:ホームカミング』を見てきた。

 映画の中でもちょっと引用されていたりするが、全体的に『フェリスはある朝突然に』みたいな、学校サボってフラッシュモブやるノリの映画である。ピーター(トム・ホランド)はスーパーヒーローの能力を持っている以外は本当にごくふつうの高校生で、ティーンらしく未成熟なところもたくさんある。身元を隠して活動するため、勉強やデートや友だちとの約束や部活のやりくりもしなければいけないので、サボりの言い訳を考えるのも大変だ。停学の危機(!?)に見舞われながらヒーローらしくあろうと向上を目指し、最後はとても「成熟した選択」をするピーターの成長ぶりをリラックスしたトーンで描いた作品である。オチには若者にはいろいろな選択肢があり、早いうちから大きな責任を背負うのではなく、自分の意志でいろいろなことにチャレンジするのが大事なんだというようなメッセージがこめられており、最近のヒーロー映画の中ではとくに子どもに見てもらうことを意識した作品だと思う。

 この作品には明らかに『フェリスはある朝突然に』の影響があるのだが、一方でたぶん『恋のからさわぎ』も参考にしていると思う。ピーターがITオタクの親友ネッド(ジェイコブ・バタロン)と一緒に校内を歩いていて、リズ(ローラ・ハリアー)に見とれてしまう場面は、『恋のからさわぎ』でキャメロン(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)がオタクな友人マイケル(デヴィッド・クラムホルツ)と歩いていてビアンカ(ラリサ・オレイニク)に一目惚れする場面にちょっと似ている。さらにガールフレンドのお父さんが難物だった…という展開も似ているといえば似ているのだが、実際は完全に『恋のからさわぎ』がひっくり返ったようなお父さんの設定になっているところが面白かった。

 (ここからネタバレ)実はピーターが恋しているリズのお父さんは悪役であるヴァルチャー(マイケル・キートン)なのだが、基本的にヴァルチャーは町工場の社長さんみたいな人で、家族と社員を養うために怪しい武器を開発している。ヴァルチャーはリズとピーターを車でパーティに送って行く途中、娘のボーイフレンドであるピーターの正体が自分の仇敵スパイダーマンだということに気付く。大変なことに気付いたヴァルチャーは、『恋のからさわぎ』とかに出てくるような過保護なお父さんのフリをして、話があるから…とリズを先に降ろしてピーターと2人だけで話すのだが、その時にピーターに対して自分の仕事に介入するなとけっこう怖い感じで脅迫する一方、娘とデートすることについては楽しんでこいとおおらかに認めている。既に英語のレビューとかでも言われているが、ハリウッド映画のお父さんというと、娘のボーイフレンドが気に入らなくてしょっちゅうイライラしていたり、デートを禁じたり…というあまり娘の意志を尊重できないダメパパが多いのに、ヴァルチャーは悪役で、しかも職業上の理由でピーターを追っ払う理由があるにもかかわらず、娘の意志をちゃんと尊重してデートを認めてやる。ヒーローの敵で武器商人なのだが、ヴァルチャーは父親としてはたいへん立派な人だ。このあたりの複雑さがヴァルチャーをとても面白い悪役にしている。

 ちなみに、この映画でのヴァルチャーとリズのキャスティングは役者の人種を使って観客にトリックを仕掛けるためのもので、これもすごくうまいと思った。こちらも既にレビューでずいぶん指摘されていることだが、リズは非白人、ヴァルチャーは白人で、ポイントなのはリズはバイレイシャル(複数の人種を祖先に持つ)な外見の女の子だということだ。バイレイシャルな子どもの親の人種はいろいろな場合がありうるのだが、実生活でも映画でも、非白人の子どもというのは非白人の家庭で育っているという思い込みが広く存在している。そういうわけで、見ている人はリズのご両親もきっと非白人だろうと想像してしまうので、ヴァルチャーがリズの父だなどということは全然予想しておらず、この情報が開示されたときにものすごく意外性がある。

 追記:なお、この映画はベクデル・テストはパスしない。