けっこうふつうのロマンティックアクション〜『ワンダーウーマン』(ネタばれあり)

 『ワンダーウーマン』を見てきた。

 セミスキラ島のアマゾン族の姫ダイアナ(ガル・ガドット)は母である女王ヒッポリタやおばであるアンタイオペ(ロビン・ライト)に愛され、おばから武術訓練も受けて最強の戦士に育った。ところがある日、第一次世界大戦で連合国側のスパイをつとめているスティーヴ・トレヴァーが島に流れ着く。第一次世界大戦の惨禍を聞いたダイアナは、これはアマゾンの神話に出てくる戦いを好む悪の軍神アレスの仕業だと直感し、島を出てアレスと戦うことを決意する。アマゾンの武器と武術で戦いに挑むダイアナだが、実は出生に秘密があり…

 全体的には面白いアクションだし、ダイアナはかっこいい。第一次世界大戦を舞台にしているため暗くて重い話になっており、セミスキラ島のアマゾンたちは完全に浮き世離れした神に近いようなライフスタイルの人たちであるのに対して、汚い塹壕の戦場描写は子どもも見るようなファンタジーアクションとしてはわりとリアルだ。マッドサイエンティストのマル博士がただれた皮膚をカバーするための原始的な人工皮膚みたいなのをつけているが、あれは実際に第一次世界大戦で使われたものの再現だ。また、第一次世界大戦の頃はそれ以前なら死亡していたようなケガでも死なずにすむようになるくらいは医学が発達していたものの、義肢とか痛みの緩和とかいろいろな生活の質に関するケアはそこまで発達していたなかったため、非常に悲惨な体調で帰還してくる兵士もいた。ダイアナがケガをした兵士や苦しむ庶民を見てショックを受ける描写はそういう史実の反映だ。スコットランド出身のスナイパー、チャーリー(ユエン・ブレムナー)が戦闘神経症気味で眠れず、撃てないというような描写もある。

 こういう第一次世界大戦の描写は良かった一方、なんかこの映画はフェミニストアクションの金字塔みたいに言われている…ものの、別にそこまでフェミニズム映画というわけではないと思った。主演のガル・ガドットシオニストフェミニズムの理想に叶わないとかいうことも言われているのだが、それ以前の問題としてそんなにフェミニストっぽい内容ではないと思う。もちろん、ブロックバスター映画は性差別的なクリシェであふれかえっているので、それに比べればずいぶんマシだし、力強い女性を主人公にしている。ベクデル・テストも最初の数分でパスするし(アマゾンたちは基本的に男の話をしないので)、ダイアナ以外の女性キャラクターでも凜々しく高潔な将軍アンタイオペやスティーヴの秘書エッタとか、ちゃんと描かれているキャラもいる。しかしながら基本的なストーリーラインはオーソドックスなロマンスだ。一度も男性に会ったことがなかったダイアナが、現実的だが善良な精神を持っているスティーヴを愛するようになり、その自己犠牲により愛の力を知るという展開になっていて、基本的には男性の美徳に感化された女性の成長を描いた話だ。これはヘップバーン&トレイシーのロマンティックコメディとか、『ローマの休日』みたいな古典的な恋愛映画に似た展開で、非常にオーソドックスなものなのでとくに新しさはないと思う。また、ヒロインは凄い美人で露出度の高い服装で戦ってもケガをしない神に近い存在であり(これは一番最後の戦闘場面がやたら現実離れしていてあまり迫力がないこととも関わっているかもしれないのだが)、人間世界で女性が直面するいろいろな苦労を掘り下げた話というわけでもない。フェミニズムの映画というにはちょっと一本調子で理想化されすぎていると思う。