能に近いギリシア悲劇〜東京ノーヴイ・レパートリーシアター『アンティゴネー』

 下北沢で東京ノーヴイ・レパートリーシアターの『アンティゴネー』を見てきた。言わずと知れたソフォクレスギリシア悲劇で、演出はL・アニシモフである。小さい劇場で、能の演出を取り入れた上演である。ちょっと前に翻案『アンチゴーヌ』を見たことはあるのだが、原作を生で見るのは始めてだ。

 ギリシア悲劇は能と相性がよさそうだというのはたいていの演劇好きが思ってることだろうと思うのだが、まあ予想通りだった。右側に演奏スペースがあり、和楽器などを座って演奏する楽隊がいる。前面に長方形のパフォーマンススペースがあり、奥に数本柱が立っていて、右と左から入場ができるようになっている。衣装は能装束と古典古代風の折衷みたいな感じで、面はかぶっていないが顔はかなり白く塗っていた。

 能のように様式的に演出しているため、台詞がどれもゆっくりはっきり抑え気味だ。感情的になるところでも声を荒らげたりはしないので、そこは相当にクセがある。情念を表すやり方が現代風ではないので、ちょっとまどろっこしいと思うところもあるが、これはこれで独特の味わいがあると思った。コロスの女性たちは、コロスというよりは御詠歌隊である(コロスの女性たちの衣装について、上着の色が統一されていないのがちょっと気になったのだが、あれはどういう効果を狙ってるんだろう)。きょうだいの埋葬をするため王の禁に背くアンティゴネーはさすがに凜々しく、気品のあるヒロインだった。

 しかし、初めて生の舞台で見てみると、この芝居はすごく力のある作品だが、一方で台本にはいろいろ辻褄のおかしいところがある。時間の経過が異常に早いところがあるし、ハイモンがアンティゴネーの死体を見つけるところで、その前までいったいハイモンはどこにいたのかとか、位置関係や時間経過が相当曖昧だ。まあ、古典なのでそのあたりはしょうがないのだが…