『良い子はみんなご褒美がもらえる』を見てきた。トム・ストッパードの戯曲で、ウィル・タケットが演出である。
一度ナショナル・シアターで見たことがあるのであらすじはそちらを参照してほしいのだが、基本的にはソビエトとおぼしき独裁国家で政治犯のアレクサンドル(堤真一)とオーケストラいるという幻に固執するイワノフ(橋本良亮)が同房で、この2人をめぐって起こるいろいろと不条理な出来事を描いた物語である。これは非常に上演しづらい作品である。難解だし、75分くらいの短い芝居なのに、舞台の上で劇の進行にあわせてピッタリ演奏してくれるオーケストラが必要なので(アンドレ・プレヴィンが作曲を担当している)、お金や手間がかかる。今回見に行ったのも、めったに上演されなくてたぶん見逃すとしばらく日本語では見られないと思ったからである。
前回ナショナル・シアターで見た時もそんなに簡単というわけではなかったのだが、今回の上演のほうが易しくする気がないというか、難解なまま全体を提示しようとしているような印象を受けた。ナショナルのほうが広いステージを贅沢に使っていたように思うのだが、このプロダクションはわりといろいろなものが置いてあるところにオーケストラが詰め込まれていて、息苦しい印象を与える。演出家の意図としては、フェイクニュースが横行する今こそやりたい芝居だということだったようなので、この難解さ、息苦しさというのはまさに演出意図に沿っているんだろうと思う。つまり、易しくて口当たりのいいものに溺れるのではなく、わりと見ていてつらくて考え込んでしまうような内容の芝居をそのまんま剥き出しで提示することで、現実がウソばかりだということに観客を向き合わせたいのだろう。
とはいえ笑いもあるし、とくに堤真一の演技はとても良かった。ただ、これは前回見た時も思ったのだが、この作品の終わり方はあまりにもメチャクチャというか、メチャクチャすぎてハッピーエンドみたいになっていて、この終わり方でいいのかな…という気がする。現実はたぶんこうは終わらない。