ロシアの現代政治~チーク・バイ・ジャウル&モスクワプーシキン劇場『尺には尺を』(配信)

 チーク・バイ・ジャウルとモスクワプーシキン劇場『尺には尺を』をシビウ国際芸術祭の配信で見た。デクラン・ドネラン演出なのだが全部ロシア語で、英語の字幕がつく。2013年の上演である。

 

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 完全に現代のロシア政治を背景にした上演である。衣装は現代だし、最後の場面はニュースで見るロシアの記者会見みたいな雰囲気だ。アンジェロー(アレクサンドル・フェクリストフ)はたぶんわざとプーチンに似せており、官僚的な仕事の処理については非常に優秀だが腐敗しまくっている。アンジェローの性的な妄執がありありと描かれており、まずは白い修道女の衣類に身を包んだイザベラが嘆願に来た際、口論がヒートアップしてイザベラに飛びかかられ、もみあったのをきっかけに性欲が芽生える。その後はイザベラが出て行った後さっきまで座った椅子に顔を近づけてにおいをかぐわ、二度目の会見ではイザベラを暴力的に襲うわ、とにかくアンジェローはものすごく性的な問題を抱えているように見える。アンジェローはおそらく自分は優秀だと信じて育ってきたが、性的なことがらや人間関係の機微などには全く無知な男で、そのせいで権力を濫用するようになってしまったように見える。

 一方、公爵ヴィンセンシオ(アレクサンドル・アルセンティエフ)も冒頭ではえらく疲労して政治にやる気を失っているみたいだし、また市民が自由になりすぎるのを嫌がったりしていて、信用できる有能な政治家には見えない。そんなヴィンセンシオだが、聖職者のふりをしてイザベラやクローディオとかかわることによって多少、政治家として成長したようで、とくに発作的に行動するクローディオに泣きつかれた時の戸惑った表情などは今までなかった経験をしているのだろうということがわかる。多少はマシになったように見えるヴィンセンシオだが、それでも最後にイザベラにアンジェローを許させようとしたり、イザベラに求婚したりするあたりは、むしろ以前よりも外交的に手際よくいろんなことを解決できるようになっただけで誠実に他人の自由を尊重するようになったというわけではないような印象を受ける。全体として問題劇を問題劇らしく、解決がはっきりしない形でそのまま提示した芝居で、とてもよく工夫されたプロダクションだと思う。