ダイアナの思し召し~ストラトフォード・フェスティヴァル『ペリクリーズ』(配信)

 ストラトフォード・フェスティヴァルの『ペリクリーズ』を配信で見た。スコット・ウェントワース演出で2015年の上演である。

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 『ペリクリーズ』はあんまり上演されない芝居で、私の記憶ではおそらくライヴの舞台では2回しか見たことがなかったと思う。というのも、この作品は大変とっちからった内容で、とくに前半がずいぶんとごたごたしているのであまり演出しやすくない。シェイクスピアとジョージ・ウィルキンズの合作だと言われており、最後のほうはシェイクスピアのロマンス劇らしくなるのだが、最初のほうは大変とっちらかっている。

 そんなごたごたした芝居を、音楽と笑いを交えてしっかりまとめようとしたプロダクションである。1人が何役も演じているせいでちょっと慌ただしすぎるし、イマイチうまくいってないところがないわけでもないのだが、全体としてはきちんとしたプロダクションになっている。セットや美術についてはあまり奇抜なところはないが、ちょっと宗教的で神秘的な雰囲気を醸し出そうとしている。ユーモアに関しては、苦労人のペリクリーズ(エヴァン・ブリュン)をはじめとしてけっこう意外なところで笑わせてくれる。

 わりと正攻法に見えるこのプロダクションの一番の変更ポイントは、おそらく狂言回しの役割を中世の詩人ガワー(実在の著名な詩人を口上役に使っている)から女神ダイアナとその信徒の女性たちに変えていることだ。この芝居ではダイアナへの言及がけっこう出てくるのだが、このプロダクションは処女神ダイアナへの信仰を大きなモチーフにしている。冒頭を含めて何度か真っ白な衣類を着たダイアナと巫女たちがキャンドルを手に登場し、歌を歌って宗教的な儀礼を行いながら物語の説明をする。このプロダクションでは若いタイーサとマリーナをデボラ・ヘイが演じているのだが、最後の場面で出てくるおばちゃまになったタイーサはダイアナ役もつとめるマリオン・アドラーが演じている。この作品はマリーナが強姦から逃れることと、タイーサが死から逃れてダイアナ神殿に仕えるのが重要な展開なので、全体としてわりと問題含みでまとまりの悪いところもある内容を、女神ダイアナのご加護というモチーフでまとめようとしたようだ。このプロダクションにおけるダイアナは純潔を守る怒れる処女神というよりは女性全体を守ってくれる存在で、若い女性を性暴力から救ってくれるだけでなく、母親とか既婚女性も不幸から保護してくれる非常に寛大で温かみのある女神である。