妊娠がイヤなのって、何か背景がないといけないの?『Swallow/スワロウ』(ネタバレあり)

 カーロ・ミラベラ=デイヴィス監督の『Swallow/スワロウ』を見た。

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 ヒロインのハンター(ヘイリー・ベネット)は富裕な夫リッチー(オースティン・ストウェル)とニューヨーク州の郊外にあるお屋敷で暮らしている。ハンターは妊娠するが、それとともに異食症を発症するようになり、ガラス玉をはじめとしていろいろなものをのみ込むようになってしまう。超音波の検査ですぐにバレるのだが、夫やその両親はハンターのことを理解しない。ハンターの症状はいっこうに良くならないが…

 

 非常にフェミニズム的なスリラーではある。あまり富裕な家庭の出身ではなく、家庭の事情も複雑で頼れる人もいないハンターは完璧な主婦を目指しているのだが、夫もその両親もハンターの人格を全く尊重していない。夫は企業トップの御曹司で親のコネで仕事をしており、見た目はやり手風だが、実際はそこまで優秀ではなさそうだ。序盤はそんなハンターの孤独が、自然の豊かなニューヨークの北部にある豪勢なお屋敷を舞台に強調されている。このお屋敷がやたらとガラスが多くて見晴らしが良く、雰囲気が『透明人間』のお屋敷とかにちょっと似ていて不穏である

 全体的に非常に雰囲気があり、コンセプトもよくわかるのだが、ただ個人的には終盤になってからけっこう引っかかってしまうところが多かった。妊娠して周りから子供を産む機械のように扱われるハンターがいろんなものをのみ込み始め、それによって自分の体をコントロールしているかのような感覚を得はじめるところはすごく面白いと思ったのだが、ハンターが妊娠にうまく対応できない理由付けとして、母親がレイプされてできた子供だからというなんだか俗流精神分析っぽい背景が途中から出てくる。個人的にこれは全く要らないのではないかと思った…というのも、妊娠というのは別に家庭の事情が複雑でなく、健康で幸せであったとしても非常にストレスフルで怖いことであるはずだ。しかしながらこの映画では、家庭に複雑な事情があるからハンターが妊娠に対応できないんだみたいな描き方になっており、じゃあ幸せだったら妊娠は怖くないの?と思ってしまった。何の理由がなくても妊娠だけで画鋲をのみ込む理由になるくらい怖いことだと思うし、妊娠を嫌がること、怖がることについてあれやこれやと理由なんかつけなくていいはずだ。不幸な家庭環境が妊娠恐怖の原因、みたいな説明はむしろ妊娠への恐怖をなんらかの異常なものとして見なす方向性に近づいていると思う。

 また、終盤は他の細かいところもちょっといろいろツッコミたいところがあった。シリアから亡命してきた看護師のルエイ(ライト・ナクリ)は掘り下げ不足だし、あとリッチーが精神科医からこっそりハンターの情報を聞き出そうとしていたことがわかるあたりの編集はちょっとがちゃがちゃしていて最初、2人がどういう位置関係にいるのか把握しづらい。また、個人的に最後にものすごく気になったのは、最初にビー玉がトイレで出てくる場面ではハンターがちゃんとお尻を拭いているらしいところを見せていたのに、最後にあの状況でハンターはなぜトイレでお尻を拭く動作をしないんだろうということだ。大変細かいことだが、そこはものすごく気になってしまった。